アナタのために



「あの……乾先輩…」
「何、海堂?」

朝練終了後、部室で着替えてる途中、海堂が真剣な声で乾を呼ぶ。
乾も、大事な話しかな?と思い、海堂と目を合わせるが、恥ずかしいのか、海堂は頬を朱に染めて、俯く。

「あの…昼用事あります?」
「…別に、これといってはないけど?」

本来の乾なら、こういう聞かれかたをされたら、先に何?と問い返すのだが、海堂相手にそれをすると、
「いいっす」
と、言いたいことを言わずにやめてしまうため、海堂の相手にのみ、用事の有無をキチンと伝える。

「じゃあ…昼、一緒に食ってもいいっすか?」
「いいよ。じゃ、昼休みに屋上で…でいいかな?」
「はい」

そんな約束を交わして終わった、朝。
そして、現在昼。

「お待たせ」
「いえ」

約束どおり、昼休みに屋上にいる二人。
ドアの死角になる場所に腰を降ろす。

「先輩、コレ…」

座った途端、海堂が小さな声で、袋を乾に差し出す。

「何?見ていいの?」
「っす」

海堂が頷いたので、乾が袋を開けて、中を覗く。

「昼…弁当…交換…」
「ああ、前に不二や英二が言ってな」

ボソボソとしゃべる海堂の言葉に、乾が思い出す。
前に部活終了後の部室で、不二や菊丸が大石・河村にその話を約束させていた。

「もしかして、海堂もしたかったの?」
「…っす」
「なんだ、なら言ってくれたら、いつでもしたのに」
「…でも、先輩は…その…自分で作ってるのに…俺は…」
「そんなの、穂摘さんの作ったものなら、大歓迎だけど……」

ふと、乾の口が閉じられる。
今の会話に、何かひっかかったらしい。

「先輩?」
「もしかして、海堂が作った?」

袋の中のサンドイッチを指して、問う。

「あ…やっぱ、俺なんかが作ったものなんか、食えませんよね…」
「コラ、自分を卑下しないって言ってるだろ」
「でも…」
「逆だよ。海堂が俺のために作ってくれるなんて思わなかったから、驚いただけ。凄く嬉しい」

優しく笑いかけて諭せば、海堂もホッとしたように笑みを見せる。

「有難う」

乾の言葉に、ブンブンと首を振る海堂。

「礼を言われる覚えないっす」
「俺のために、したことない料理をしてくれたんでしょ」
「……」
「凄く嬉しい。感謝の言葉くらい言わせて」
「…っす」
「じゃあ、はい交換」

乾の弁当を海堂が受け取る。

「では…」
「「頂きます」」

お互いが作ったお弁当を、二人はとても美味しく食べ、残りの昼休みを幸せに過ごしたとさ。

Fin