キスの海で溺れさせて



部屋を満たす空気は既に甘く、零れる吐息は熱さをはらんでいた。

「中々、強情だな」

面白そうに口の端をあげて、耳元で囁く。

「はっ…」

その声にすら感じるのか、甘い声が零れる。

「ぃ…っ…」

耳の裏側を痕がつくほど吸い上げられ、チリッとした痛みに声をあげる。

「耳の裏が隠れるように、バンダナしろよ」

紅く散った花弁を見て、低く笑う。

「な…、んなとこにつけるか…」
「つけるかって聞かれても、もうつけたしね」

海堂の苦情に、心底楽しそうに乾が答える。

「…変態」

楽しそうな乾に、眉を寄せて悪態をつく。

「お前も、言うね」

嫌な笑顔を顔に貼り付け、口を開く乾。
ヤバッ…
そう海堂が思った時には、海堂はソファの肘置きを枕にするような状態で、ソファに倒されていた。

「変態、おおいに結構。餌食になるのは薫だし」

ニカッと笑うその笑顔は、野菜汁を飲まそうとする時の笑顔と同じで、

「…先輩…?」

海堂の背中に冷たいものが流れていった。

「折角だし、キスだけでイかせてやるよ」

いつもより低い声で耳元で囁かれる。
その声だけでゾクゾクする海堂。
囁かれた卑猥な言葉に、体中を朱に染める。
唇を舐められ、ゾクリと体中が粟立つ。
行為の始まりの合図のように唇を貪られて、一度は落ち着いた息が上がる。

「ふ…ぁ…」

乾の唇が首筋に落ちる。
痕を残すことのない強さで口吻を落としながら、海堂のシャツのボタンを外していく。
はだけたシャツは海堂の肘のところで留まる。
海堂の紅く染まった肢体が、白いシャツに映えて綺麗なコントラストを醸し出す。
その紅く染まる肌の中でも、一際紅く熟れている果実に乾が唇を寄せる。

「ぁっ…やぁ…っ…」

舌で転がして、チュッと音を立てて吸うと、海堂の口から堪えきれない喘ぎが洩れる。
プクリと立ち上がり始めるソレを、軽く噛んで、舌先で押しつぶす。
たっぷりと片方の果実を可愛がった後、もう片方の待ちわびている果実にも同じように愛撫を施す。

「あぁっ…ん、んぁ…」

一切、手は使わず唇だけでもたらされる快楽に、海堂の口からは断続的に甘い喘ぎが零れ続けていた。
両の果実を満足がいくまで味わって、乾の唇が下へと降りていく。

「ああっ…」

ズボンの上から、存在を主張し始めているソレに唇を落とされ、海堂の体が波打つ。

「もう、こんなにして…」

ククッと乾が笑う。
そして、ズボンの上から舐めあげ、歯で擦る。
形をなぞるように舌を這わせ、時折、思い出したように歯を立てる。

「やっ、あぁ…っ…」

ズボンの上からもたらされるもどかしい愛撫に、海堂の肢体が揺らめく。
そのことに気づいた乾が顔を上げ、海堂を見る。

「足りない?」

乾の言葉に、海堂は緩く首を横に振る。
恥ずかしくて、ほんとのことなど言えないのだ。

「素直に言わないと、このままだけどいいの?」

体ごと上げ、息が触れるほど近く、顔を持っていく。

「直接、キスされたいんでしょ?」

視線を合わされ、囁かれる。

「……」

肯定することも、否定することも出来ずに、黙っている海堂。

「薫…」

促すように名前を呼び、ペロッと海堂の唇を舐める。
その行為に海堂の視線がはっきりと乾を見る。
優しく微笑まれて、海堂はゆっくりと頷いた。

「よく出来ました」

ゆったりとご褒美の代わりに、口吻が与えられる。
触れ合うだけのキスの後、乾は海堂のズボンのジッパーを外す。
静かな部屋に、その音だけが響いて、これから行われることに海堂の体が打ち震える。

「薫、腰上げて」

乾に促されるままに腰を少し上げると、スッと乾が海堂のズボンを下着ごと脱がしていく。
乾の目の前に差し出された、自身に羞恥を覚え、海堂は目を背ける。
ギュッと目を瞑った海堂の瞼に唇で触れた後、待ちわびている海堂自身に唇を寄せる。

「ひゃぁ…あっ…、ああっ…ぁ…」

根元から先端へと舌を這わされて、口に含まれる。
軽く先端に歯を立てられた後、吸い上げられる。
括れの部分にも歯を立てられて、甲高い声がひっきりなしに漏れ続ける。
涙を零し始めた先端を、舌でチロチロと舐め続けると、海堂の目からも快楽に浮かされた涙がこぼれ始める。

「あんっ…あぁ…ぁ、やあっ…ん…」

そこばかりを攻め続けると、海堂の声がより艶を帯びる。

「せっ…ぱい…、もっ…」

乾のもたらす快楽に啼きつづける海堂が、苦しげな声で請う。

「もう、イく?」

先端にキスされ、海堂の体が跳ねる。
問われた言葉に、海堂がコクコクと首を縦にふった。

「じゃ、いいよ。イッて」

乾がもう一度、海堂自身を口に銜える。
―――――っ」

強く吸い上げられて、声にならない声をあげて解放した。

「どうする?」

海堂が吐き出したものを全て飲み干して、乾が顔をあげる。

「キスだけっていうなら、これで止めるけど?」

グタリと体をソファに預けながら、海堂は乾を見る。

「…わかってんでしょ」

呼吸を整えながら呟いて、腕を乾に向かって伸ばす。
その腕を引っ張って、乾が海堂を抱きしめる。

「…ベッド…がいい…」

乾の肩口に顔を埋めて、小さな声で囁く。

「了解」

しっかりと聞き取った乾は、海堂を抱き上げ、自室のベッドへと向かった。


「ふ…ん…、や…やあ…っ…」

ベッドに横たえられ、ゼリーに濡らされた指を後ろに潜り込まされる。
海堂の一番感じる部分を攻めながら、指を徐々に増やしていく。
既に海堂の中には、指が三本埋め込まれていて、一本ずつバラバラの動きで海堂を攻め立てる。
壁を引掻くように爪を立て、他の指で中を掻き回す。
三本の指が自由気ままに中で動く度に、海堂からは意味の成さない声が零れ続ける。

「ぃ…あ…はぁんっ…」

乾の指が中で轟く。
その感触に海堂の肢体が妖しく揺らめく。

「…せんっ…ぱっ…」

シーツをギュッと握り締めて、耐え切れないように海堂が乾を呼ぶ。

「ん?」

指を休めることなく海堂を見ると、物欲しそうな目で乾を見ていた。

「指じゃ、嫌?」

その姿に苦笑交じりに問いかけると、コクンと目を伏せて頷く。

「俺が欲しい?」

耳元で囁くと、恥ずかしそうに顔を枕で隠し、それでもはっきりと頷いた。

「顔、見せて」

海堂の乱れた髪を梳いて、促す。
その優しい感触に、海堂がそろそろと顔をあげる。

「好きだよ」

頬に指を這わして、唇を重ねる。

「力、抜いて」

乾の言葉に海堂が大きく深呼吸する。
ゆっくりと息を吐いて、体から余計な力を抜こうと努める。
海堂の体の力が抜けるのを見計らって、一気に貫く。

「ひっ…ぃ…ああっ…」

挿入時の圧迫感に海堂の口から苦しそうな声が漏れる。

「大丈夫か?」

最奥まで埋め込んで、海堂が落ち着くのを待つ。
苦しさが緩和はしてくる頃を見計らって、声をかける。

「…先輩…」

答える代わりに海堂は、乾の首に腕をまわす。
それを合図に、乾が動き始める。

「ぅんっ…ぁ…あぁっ…」

海堂の体から快楽を引きずり出すように、海堂の感じる部分を重点的に攻める。
海堂の声が苦しげなものから、甘いものに変わっていくのに時間はかからなかった。
その変化に、乾はホッとした表情を見せる。

「気持ちいい?」

首を擡げ始めた海堂自身に手を伸ばし、滴る先端に指を伸ばす。

「んあっ…い、いぃ…ああ…」

前を手で弄られ、海堂から絶え間ない声が漏れ続ける。
与え続けられる快楽に、理性は完全に麻痺しているため、自分が何を言っているかなど今の海堂には理解出来ていない。
強弱をつけて腰を動かし、指も淫らな動きで海堂を狂わす。
海堂の声に苦渋の色が浮かんだのを聞いて、乾の動きが激しくなる。

「あ・あ…ああぁっ……」

一際強く打ち付けられて、海堂が高い声をあげ、乾の手の中に欲望を吐き出す。

「っ…」

海堂に続くように、乾も中に欲望を吐き出した。


情事の後、気だるい体を投げ出していたら、乾にお風呂に入れてもらえる。
優しく、丁寧に洗ってくれる乾の手に酔いしれながら、海堂はされるがままに体を乾に渡す。
乾のパジャマの上を着せてもらって、替えたばっかのシーツの上に乗せられた。
乾は海堂の着てるパジャマの下を履いて、ベッドに腰掛ける。
後ろを向いて、片手を海堂の体の向こう側につく。
もう片方の手で海堂の髪を梳きながら、額や瞼、頬と順番に口吻を落としていく。
海堂は気持ちよさそうに目を瞑りながら、乾の成すがままになっている。
情事の後の、こんな他愛もない乾の仕草が海堂は大好きだったりする。
その内、情事の疲れと、乾の手と唇の気持ちよさに、海堂の瞼が重くなる。

「眠いなら、寝ていいから」

ウトウトしてきた海堂に気づいて、乾が声をかける。

「…ん…」

乾の声に、ぼんやりと視線を泳がして乾を捕らえる。

「それ、もっとして…」

ふんわり笑ってそう言うと、海堂の瞼がすっと下がる。

「お前の望むままに」

安らかな寝息を立て始めた海堂の頬にキスをして、ゆったりと乾は笑みを零した。

Fin