Best Friends



青学テニス部3年レギュラー陣はとっても仲がいい。
2年がああだから余計にそう思うのかもしれないけど。
そう、部活中に呟いたのはカチローだった。

「確かに、仲はいいよなぁ」

レギュラー陣が使っているコートに視線を向けながら、堀尾がしみじみとした口調でウンウンと頷きながら言う。
一年トリオが見ている先では、話題になっている3年たちが集まって、何やら話していた。

「桃先輩と海堂先輩みたいに、お互いをライバル視とかってなさそうだもんね」
「でも、水面下じゃわかんねぇぜ」

カツオの言葉にしたり顔で堀尾が言う。

「部活内じゃ仲良いように見せてるだけで、普段は違うかもよ」

そう、堀尾が言うのに、

「え〜、そうかなぁ?」

カツオが不審そうな声を出す。

「リョーマ君はどう思う?」

カチローが隣の越前に聞いてみるが、

「さあ?」

返ってきたのは、そっけない返事だった。

「何の話だぁ?」

そこに、越前の首に腕を回しながら桃城が話しに入ってくる。

「桃先輩」
「三年生の先輩たちって仲良いなぁって話してたんです」
「あぁ、あの人たちね。確かに仲良いよな」

楽しそうに談笑している3年たちのほうを向いて、桃城が答える。

「やっぱ、普段も仲良いんですか?」

カチローがそう聞くと、

「良いと思うけど。まあ、そこんとこは俺よりも海堂の方が詳しいと思うぜ」

と答えた後、大声で海堂に向かって、

「おお〜い、マムシ〜」

と叫ぶ。

「マムシって言うんじゃねぇって、言ってんだろうが〜」

途端に、海堂が走ってくる。

「先輩たちってさ、普段でも仲良いよな?」
「あっ?」

臨戦態勢に入ろうとした海堂を牽制するかのように、桃城が口を開く。

「先輩たちって、普段でも仲良いのかなって話してたら、桃先輩が、海堂先輩が詳しいって…」

唐突な桃城の質問に、恐る恐るカチローが付け加える。

「……」

桃城とカチローの言葉に、3年たちがいる方を見る海堂。
しばし逡巡した後、

「……俺が入部したときには、ああだったぞ……」

と答えた。

「一年の時に、一回、弁当を忘れた時に…」


海堂が青学テニス部に入部して間もない頃のこと
海堂の母親が体調を崩して、弁当を持って来れない日があった。
昼、海堂が購買に行くと、既にそこは人の山で

「うぜぇ…」

それだけでうんざりしてきた海堂だったが、だからといって昼飯を買わないわけにもいかないため、その中に入って行こうとはするのだが…
まだ、今ほど背も高くはなく、どちらかと言えば華奢なほうに分類される海堂は人波の中に埋もれてしまう。
何で、こんなにいんだよ。
半ばキレそうになりながら、奮闘するが、既にこの状況に慣れている上級生たちにどんどん先を越されていた。
時々、頭の上に手を置かれたり、どんとぶつかってこられるたびに、海堂の苛立ちは募り、もう後少しで、爆発しそうな時、ひょいと海堂を持ち上げる人物がいた。

「えっ」

突然、宙に浮く体に驚いた海堂の耳に、

「頼むから、こんなとこでキレんなよ…」

呆れたような、一年上の先輩の声が入ってきた。

「…乾…先輩…」

スッと下ろされた海堂が顔を上げると、そこには同じテニス部の乾がいた。

「お前、要領悪すぎ。あれじゃ、いつまでたっても買えんぞ」

海堂のボロボロになった姿に乾が苦笑する。

「…初めてだし…」
「今までは、弁当?」

海堂の言葉に、乾が聞くと、

「…ウス」

小さな返事が返ってくる。

「今日は、忘れたのか?」
「いえ…、母が…体調悪くて…」
「そっか…」

下を向きながら話す海堂に、しばらく何か考えてた乾が唐突に口を開く。

「もう今から行っても、あんまり残ってないだろうし…」

ブツブツと購買のほうを眺めながら呟く乾に、海堂は不思議そうにする。

「海堂も一緒においで」

ふむと一回頷いて、海堂に向き直り、そう言い出す乾。

「はぁ…」

何が何だかわからないままに、海堂は乾に連れられて購買から出る。


「待たせたな」

購買を出たところに、大きな荷物を抱えた手塚が立っていて、乾は海堂を連れたまま、手塚の元に行く。

「いや…海堂?」

乾の言葉に、軽く返して、乾の横にいる海堂に視線を向ける。

「海堂、今日、弁当ないらしいからさ、連れて行こうと思ってさ。いいだろ?」
「別に構わん」

二人の簡単なやり取りに、話がさっぱりと見えない海堂が呆然としながら聞いている。

「重かっただろ、持つよ」

手塚の両手にある大きな包みを一つ取って、乾が歩き出す。

「海堂?」

それに続いて歩き出す手塚と、それをぼけっと見ている海堂に、乾が振り返って声をかける。

「あっ、スイマセン」

乾の声に正気に戻った海堂が、二人の元に走っていく。


「乾、遅い」

三人がついた場所は、テニス部の部室。
乾がドアをあけると、既に来ていた菊丸が待ってましたとばかりに乾に飛びつく。

「悪い、途中で購買寄ってたからさ」

菊丸を抱えながら、テーブルに荷物を置くと、菊丸が乾から離れて、その包みを開け始める。

「あれ、海堂?」

菊丸と同じように既に部室に来ていた大石が、手塚から受け取ったバスケットの中身を取り出しながら、最後に入ってきた海堂を見つける。

「ほんとだ、薫ちゃんだ〜」

大石の声に海堂の存在に気づいた菊丸が、ポイッと包みから手を離し、海堂に飛びつこうとする。
げっ…
部室のドアの前で突っ立ていた海堂は、自分に向かって飛んでくる菊丸に後退る。

「やめとけ、菊丸」

ガシッと乾が菊丸の首を掴んで、それを回避する。

「何でよ〜」

首に腕を回され、ジタバタと暴れる菊丸。

「怯えてるだろ」

それを難なく押さえ込みながら、乾が海堂を指す。

「大石」
「何だい?」

大石が返事をすると、乾が腕の中で暴れてる菊丸と、ポイッと大石に投げる。

「わわっ」

驚いたような声を出しながら、大石が菊丸を受け取る。

「ちゃんと、押さえとけよ」
「はははは…」

キーキーと叫ぶ菊丸を無視して、乾が大石にそう伝えると、大石は困ったように笑うしか出来なかった。
ただし、手は菊丸を宥めにかかっていた。

「海堂」

菊丸を大石に渡した後、乾は海堂を手招きして、隣に座らせる。

「悪いな、びっくりしただろ」
「いえ…あの…」

乾の言葉に、流石に素直に頷くことも出来ず、しどろもどろになって海堂が答える。

「乾、もう食べていい?」

一人で騒いで腹が減ったのか、菊丸が目の前に並べられた数々の料理を見ながら訴える。

「河村と、不二がまだだ」

それに乾の代わりに、手塚が答える。

「あの二人、どこ行ったんだよ〜」

その言葉に、菊丸が叫ぶと、

「河村の親父さんが寿司作ってくれたらしいから、取りに行ってる」

あっさりと乾が答える。

「ほんと、ラッキー」

その言葉に、ヤッターと騒ぎながら、まだかなーと部室の外に二人を迎えに行く。

「騒がしい奴だ…」

溜息を吐きながら呟く手塚に、まあまあと大石が苦笑を漏らしながら宥める。

「凄いだろ」

そして、感心したように目の前の料理を眺める海堂に声をかける。

「全部、乾が作ったんだよ」
「えっ、これ全部ですか…?」

大石の説明に、海堂が目を丸くしながら乾を見る。

「まあね」
「凄い…」

笑って答える乾に、海堂は感嘆の溜息とともにそう呟いた。

「そうでもないよ」

海堂の心底感心した様子に、乾は満足げに笑う。

「お寿司、到着〜」

四人で乾の料理話しに和んでたところで、菊丸が不二と河村を連れて戻ってきた。

「ご苦労さん」
「お寿司の出前のスリリングさを味わったよ」

乾の労いの言葉に、不二がにっこりと笑いながら、海堂とは逆の乾の隣に座る。

「楽しかったみたいだな」
「とっても。また、しようね河村」
「そうだね…」

楽しそうな不二に対して、河村は疲れきった表情で答える。

「俺が付いていけばよかったかな…」

その河村の表情に、大体のことを察した大石が同情的な視線を向ける。

「いいんだよ、大石」

大石と不二の間の席に座りながら、気にしないでと笑う。

「さぁ、用意も出来たし食べよ〜」

河村から預かった寿司を真ん中において、手塚と大石の間に座り飲み物を持ち上げる菊丸。
それに続いて、他のメンバーも飲み物を掲げる。
一瞬遅れて、海堂も同じようにする。

「じゃあ、乾杯〜」

菊丸の声に、それぞれも乾杯と返す。楽しく談笑をしながら美味しい料理の数々を食していった。

「タカさんとこの寿司、美味いね」
「有難う」

河村寿司から持ってきた寿司を両手に持って食べながら話す菊丸に、河村は苦笑しながら答える。

「英二、食べながら話したら零れるよ」

大石が片手にハンカチを持ちながら、菊丸の周りを片付けいく。
横で黙々と食べている手塚の眉間に皺が寄っているのを気づいてるがためだ。

「乾も、相変わらず上手だね」

乾の作ったサンドウィッチをパクつきながら不二が話す。

「サンキュ」
「海堂はどう、美味しいでしょ」

不二が乾の横で黙々と食べている海堂に訊ねる。

「…美味しい…です」

持っていた箸を置いて、乾を見上げる。

「有難う」

そんな海堂に優しく笑って、乾は海堂の頭を優しく撫ぜる。

「あの…いつも、こんなことしてんですか?」

頭を撫ぜる手がとても優しかったから、海堂はするっと思ったことが口をついて出た。

「大体、月二回くらいの割合でしてるけど」
「それ以外のときでも、ほとんど僕らここで食べてるよ」

海堂の問いに、乾と不二が優しく答える。

「…また…来てもいいですか…?」

優しく微笑みかけてくれる乾と不二に安心して、海堂が訊ねると、

「いつでもおいで」
「待ってるよ」

と、優しい言葉が返ってきた。
そんな先輩たちの優しさに、海堂がはにかむように笑う。

「あーっ、薫ちゃんが笑ったー」

それをみた菊丸が叫ぶのに、海堂が真っ赤になって俯く。

「海堂って笑うと可愛いね」
「不二、海堂困ってるよ」
「英二も、海堂が可哀そうだろ」

恥ずかしそうに俯く海堂にお構いなしに騒ぐ菊丸と不二に、横にいた大石と河村が気の毒そうにしながら、二人を止める。
手塚は一瞬、固まっていたが、すぐにまた黙々と食べ始める。
そして、隣にいた乾はというと、しばしジッと海堂を見ていた後、口元を少し歪めて海堂の耳元に口を寄せて、

「笑った顔も可愛いけど、そうしてる顔も可愛いよ」

とのたまわった。

「なっ…」

真っ赤な顔をバッとあげた海堂が見たのは、嫌な笑みを口元にしいた乾だった。
ハメられた…
クスクスと海堂を見て笑う乾に、海堂は黙って睨みつけるが、乾の笑みは深くなるばかり。
挙句の果てに、

「ほんと、海堂って可愛いなぁ」

と、笑いながら言われてしまい、海堂の顔はどんどんと赤くなっていった。
流石に誰も、こうなった乾を止めることは出来なくて、この後、しばらく海堂は乾のお気に入りのおもちゃになっていた。


「…ってことがあったな」

自分が笑った後のことは省いて話した。

「やっぱり、仲良いんですね〜」

海堂の話しにカチローが感心したように呟く。

「何か、あの人たちって泊まりあいっことかもしてそうだよな〜」

ふと思いついたことを堀尾が口にすると、

「月一で乾先輩の家に泊まってる」

と、海堂が答えた。

「マジっすか」
「ああ、部活のない時に…」

乾と菊丸で料理を担当して、不二と手塚、大石が買出し、河村が家から寿司を持ってきて、朝まで全員で騒ぐ。
月一回行われるそれに、参加させて貰うようになったのはいつからだったか…
そんなことを考えていると、後ろから低い声が聞こえてくる。

「お前、それにも参加してんのか」

海堂が後ろを見ると、桃城が恨めしそうに睨んでくるのに気づいた。

「それがどうした」

フンと鼻で笑って答えると、

「ずるいじゃねぇかよ、お前ばっか、乾先輩の料理にありつけて」
「日ごろの行いだろ」
「んだと〜」

海堂の言葉に桃城が臨戦態勢に入ろうとしたが、んと一瞬考えた後、海堂にニタッと嫌な笑みを見せて、海堂が嫌な予感がすると思ったとほぼ同時に

「乾先輩〜、俺も参加させてくださいよ〜」

と叫びながら、乾に向かって走っていく。

「桃先輩…」

それを見送る一年たちの横。
乾の腕にまとわりついている桃城の姿を見て、怒りを倍増させてる海堂がいた。
怖い…
その殺気に、一年トリオは怯えるばかりだが、我らが王子様は

「俺も、参加したいかも」

と呟きながら、3年のいるほうへと歩いていく。

「ベタベタすんじゃねぇよ…」

桃城と逆の腕に張り付いた越前に、海堂の怒りは頂点に来たらしく、ふしゅうと息を吐いた後、走っていった。

「てめぇら、乾先輩にくっつくんじゃねぇ」

ダーッと凄い勢いで走って行った後、乾の両腕に張り付いている越前と桃城を引っぺがし、がしっと乾に抱きついて威嚇する海堂。

「けち、いいじゃねぇか少しぐらい」
「海堂先輩、心狭すぎ…」
「うっせぇ」

ギャーギャーと乾を取り合う、1.2年トリオに

「面白そうだね」
「俺らもまざろっか」
「いいね」
「じゃあ、乾〜」

それを見ていた3年6組コンビが混ざる。

「勘弁してくれ…」

ギャーギャと騒いでる中、乾の声が虚しく空に響いたのだった。

Fin