「今年もまた、問題児が入ってきたのな…」
「いうなよ、言うだけむなしくなるから」
「俺たちに幸せはないのか?」
「同じ学年よりかはマシじゃないか?」
「間にいるのも充分、不幸だ」
愚痴る、泣き喚く、叫ぶを繰り返しているのは現在、最上級生でやりたい放題のはずに、テニス部3年。
とはいえ、レギュラーの半分を下級生に奪われたうえに、その下級生の性質の悪さにテニスでもテニス以外でも勝てずに肩身の狭い思いをしていた。
そんな彼らの密かな楽しみだったのは、新入生たち。
ともに苦楽をわかちあおうと思ったのに……
「「やんのかコラァ」」
よりにもよって、入部初日に取っ組み合いの大喧嘩を始めた新入部員。
その問題児たちが、一番の実力者だなんて、自分たちは呪われているとしか思えない。
最上級生の彼らは、既に新入生の育成すら放棄して、日陰者と成り下がってしまっていた。
「先輩、放っておいていいんですか?」
「あいつらの世話はお前たちに任す」
「はぁ…」
「俺はもう知らん」
「はぁ」
部活に出る前から疲れきってしまっている最上級生に、個性的な面々以外の2年生たちは同情を禁じえなかった。
「先輩たち、とうとう放棄しちゃったね」
「可哀相に」
「合掌しといてあげようにゃ」
「不二・乾・英二……」
「先輩たち、生きてるから。本当に合掌しないであげようよ」
そんな疲れ果てた最上級生たちを眺めて、手を合わせる、その原因の大半を占めてくれているはずの不二・乾・菊丸。
それを止めようとしているのは、彼らと仲のいい、心優しい、大石と河村。
「それよりもさ、大石、河村」
「あれ、放っておいていいのか?」
「とうとう、取っ組み合いしてるにゃ」
「あ、また。こら、桃城・海堂」
「ああ、止めなきゃ」
手を合わせ終えた三人が指差す先、そこには新たな問題児、桃城と海堂はいつものように言い合いから発展して、取っ組み合いになっていた。
「小動物が二匹、いつもいつもワンワン・キャンキャンと元気だね〜」
「子犬と子猫というところか。どっちがどっちだ?」
「そりゃ、やっぱ桃がワンコでかおちゃんがニャンコにゃ」
「そうだね。桃は元気で誰にでも懐くからね」
「逆にかおちゃんはいっつも一人だし、手を近づけたら引っかかれそうにゃ」
「そうか?」
2人を止めにいったものの、どうあっても止め切れない大石と河村の苦労を余所に、三人はそれを暢気に眺めながら雑談を交わしている。
「今日はどっちが勝つと思うニャ?俺は桃」
「じゃあ、ボクは海堂」
「俺は、鬼の副部長」
「「え?」」
「ほら」
「あーぁ」
「ボク、知らない」
乾がクイっと顎をしゃくる。
そちらを見れば、そこには鬼の副部長。部長以上の威厳と威力を持つ手塚が怒りの四つ角を浮かばせながら、颯爽と歩いてきていた。
「おい、あれは何だ?」
「ワンコとニャンコがじゃれあってる最中」
「ワンコとニャンコ?」
「そう、あの頭立ててるほうがワンコで、バンダナのほうがニャンコ」
「ふむ」
頷く手塚の後ろで人の悪い笑みを浮かべた、不二・菊丸・乾の三人。
「お前たち、一体何をしている」
1歩前に出た手塚の声が響きわたる。
「手塚!!」
「遅かったみたいだね」
「うげ、副部長」
「ふしゅー」
「騒ぎの元となった、ワンコとニャンコは校庭30周だ」
「わ、ワンコ?」
「ニャンコー?」
「手塚、何の冗談だ?」
「ワンコとニャンコって…」
手塚の宣言に覚悟するように固まっていた面々が、呆気に取られた声をあげる。
その後ろでは、バカ受けして爆笑している三人の姿が見える。
それを見て、河村と大石は彼らが原因だと、この手塚の爆弾発言の原因を知る。
「ワンコにニャンコ、さっさとしないか」
「あの…」
「それって…」
俺たちのことですか?
とは、桃城も海堂も恐くて聞けなかった。
わざわざ確認しないほうが、きっと幸せに違いなさそうだったからだ。
「桃、海堂、すまない」
「手塚には、乾に頼み込んで名前を覚えてもらうようにするから」
「「ココは大人しく、不本意な名前を受け入れてくれ」」
心底すまなさそうに、真っ青な顔で謝る先輩2人。
それも、2人はいつも自分たちの喧嘩を止めてくれようと頑張っている人たち。
基本的には先輩には従う桃城と海堂は、哀れさも手伝って、大人しくグラウンドを走り始めた。
「ワンコ」
「部長、俺は桃城ですってばー」
「ニャンコ」
「海堂っす」
それ以来、レギュラーになり、名前を覚えてもらえるようになるまで、桃城と海堂は手塚にワンコとニャンコと呼ばれ続けていたそうな。
勿論、原因を作った手塚を玩具にしてる、不二・乾・菊丸の三人からもその不本意な名前の各オリジナリティを持った名前で呼ばれていた。
この2人が異様な速さで上達していったのは、この不本意な名前から早急に逃れるためだったのだということは、1年たった今では、2.3年の秘密になっていた。
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