隠し撮り



海堂が携帯を買った。
正確には買って貰っただ。勿論、出費者は親であって、乾ではない。
携帯に問わず、ハヤリだとかというのに興味もなく、気にならない海堂は、携帯にしても電話が出来て、メールが出来ればいいというだけなので、機種などには一切こだわってなく、乾の持つ携帯と同じ電話会社であれば、どこでもいいと親任せにしていた。
部活が終わって、家に帰って母親から携帯を受け取る。
はやる気持ちを抑えて、部屋に入り、携帯を取り出す。
ペラペラと基本操作を覚えるために説明書を開いていると、「写メール」という文字に目がいく。

「…写真も撮れんのか?」

すげーな…
単純に、感心し、そのまま次のページに進もうとするが、そこで一旦手を止める。

「写真…」

不意に思いついた計画に、海堂はこっそりと笑みを零して、そのページを読み始めた。


次の日の部活中。
休憩時間にひっそりと携帯をポケットに忍ばせて、コートを出て行った乾を追う。
乾が向った先は、コート付近の水のみ場で、乾はそこで立ち止まり、眼鏡を外して水を頭から被る。
その隙に、海堂は乾から死角になり、なおかつ、乾の姿がはっきり映る場所へ移動する。
乾の手が蛇口を閉め、乾がタオルを掴む。
顔をあげ、ブルンと乾が頭を振った後、眼鏡を持つ。
その瞬間を狙って、携帯を取りだして構えていた海堂は、携帯のシャッターを押す。
ウシッ!!ベストショット!!
バッチリと眼鏡を外した、水気を飛ばした直後の乾の姿を携帯に納めることが出来た海堂は、きちんと保存して携帯をまたポケットにしまい、どこか嬉しそうにコートに戻っていった。


週末、乾の家に例の如く泊まりにきていた海堂。
乾がお風呂に入っていて、時間を持て余していたので、自分の携帯を取り出す。
乾と家族相手にしか番号を教えてない携帯。
かかってくるのは、もっぱら乾からで、メールも乾しかない。
まあ、他に海堂の携帯の番号を知ってる人がいないのだから、当たり前のことなのだが。
そんなのだから、別に乾の家に行くときは、必要はないものだけど、あの日以来、ちょっと趣味のようになってしまった隠し撮りの写真を見たいので、常に持ち歩いている。
乾の素顔に始まって、寝顔・真剣な顔・笑った顔と…
色んな乾の姿を、乾に気づかれないように細心の注意を払って撮り続けた。
その宝物を、乾のベッドにゴロンと寝転がって眺めている。

「何、携帯なんか、真剣に見つめて…」

真剣に眺めていたせいか、相変わらず気配を殺してくるせいか、海堂に気づかれることなく海堂の後ろにやってきた乾が、声をかけるとともに、海堂の携帯をヒョッコリと覗き込む。

「…俺?」

乾の声に凍りついて動けない海堂をよそに、乾が携帯のディスプレイに映る、自分を見つける。

「いつ、撮ったの?」

海堂の背後から、海堂に乗りかかるようにして、乾が海堂の肩に顎を乗せて訊ねる。

「え…と…」

いきなりの乾の登場に、かなりうろたえていた海堂は、しどろもどろになる。

「す…すんませんっした」

どう考えても、乾の質問とはかけ離れた言葉だ。
だが、今の海堂には、何だか悪いことしたのを見つけられたような気分で、つい謝ってしまったのだ。

「謝らなくてもいいよ」

顔を真っ赤にして、枕に突っ伏す海堂に、乾が優しく声をかける。

「で、でも…」
「俺も、変わらないし」
「…え?」

乾の言葉に、海堂が不思議そうに声をかける。

「ほら」

と、言って渡されたのは乾の携帯。
乾が海堂の手にある、自分の携帯を開いて操作していく。

「…俺…」
「な、変わらないだろう」

乾の出した画面に、そこを次々押していけば、現れる、自分の写真。
ようするに、乾も海堂と同じように、携帯を使って隠し撮りをしていたということだが、海堂と乾の違う点は、乾は携帯のみならず、デジカメでも隠し撮りをしている。
ただし、デジカメに置いては、不二と共謀して、他のレギュラーも撮って、裏で売りさばいているわけだが…
ま、この二人が共謀しているという点でお気づきかもしれないが、勿論、河村・海堂の二人の写真が流れることはなかった。
そのことを海堂が知ることはないし、教えることもないが。

「俺は嬉しいけどね」
「先輩?」
「海堂に、好きって言って貰えてるみたいで」

こうして、自分の写真をたくさんとって、隠れて見てるのは、それだけ自分のことを好きだと言って貰えてるように感じれて、乾はかなり嬉しいらしい。

「俺、ちゃんと好きだって言ってる…」

プクッと頬を膨らませて、小さな声で呟く海堂。
その愛らしい姿に、乾は手で口元を覆う。

「うん、そうだね。でもね、こうやって態度でも表して貰えたから、もっと嬉しいんだよ」

クスクスと笑いながら、チュッと音を立てて、頬にキスをする。

「それは…」

キスされた頬を片手で押さえ、膨れっ面のまま、海堂は乾を睨む。

「それは、何?」
「俺だって、自分からキスしようとは思うんっすよ」

したいなと思えば、自分から動けばいい。
勿論、場所や時間は考えるが。

「じゃあ、何で?」

聞き返してくる先輩が憎たらしいと、海堂は思った。

「誰のせいだよ、誰の」

ムスッとした声で言えば、

「え?俺のせいなの?」

わけがわからないと言った感じの乾がキョトンとした顔で訊ねる。

「俺がしたいなって思ったら、アンタが俺がする前にするから、しねぇんだよ」

真っ赤になって叫ぶ海堂に、キョトンとする乾。

「プッ……」
「笑うな!」

一度、噴出したが、何とか堪えて声を殺して笑っている乾に、海堂が怒鳴る。

「ゴメン、ゴメン」

眼鏡を少し上げて、目に溜まった涙を指で拭いながら謝る乾に、海堂はフンッとそっぽを向く。

「じゃあ、今度からは薫からキスしてもらえるように、自分からはしないでおくよ」
「げっ、そんなん困るっす」

乾の言葉に、慌てて乾のほうに顔を戻す海堂。

「でも、俺からしたら、してもらえないでしょ」
「アンタが俺より行動に出るのが速いんだろ」
「そっか。なら、ワンテンポずらしてみようか」
「いい、しなくて」
「え〜、なんで」
「俺だって、こうやってして貰えるの好きっすから」

真っ赤になって、乾の唇に掠めるようなキスをする。

「だから、これで勘弁してください」
「はい」

初めて貰った海堂からのキスに、乾は驚いたような表情のまま素直に返事をした。

「あ、そうだ、先輩」
「……何?」

まだちょっとビックリした感じの乾に、海堂が楽しそうに携帯を持って話しかける。

「ココ、座ってください」

ベッドに座ってる海堂は、自分の横に乾をちゃんと同じ方向を向くように座らせる。

「いきますよ」

携帯を自分たちの前に持ってきて、シャッターを押す。

「綺麗にとれてねぇ」

撮れた写真は、横幅が狭いのでキッチリと顔が切れていて、海堂は不満気な声を漏らす。

「じゃあ、こうやったら?」

横から覗き込んでいた乾が、少し移動して、海堂の後ろから抱き込むようにして座る。

「そっすね」

乾が海堂の肩口に顎をのせて、もう一回、撮りなおす。

「どう?」
「バッチリッす」

映った写真に、海堂が満足そうな声を出す。

「じゃ、それ俺にも送って?」
「…何するんすか?」
「ん?海堂と同じこと」
「じゃあ、送ります」

海堂が撮ったばかりの写真を保存して、乾にメールで送る。

「はい、確かに頂きました」

乾も海堂から送られてきたメールから、今の写真を保存する。

「こういうのもいいっすね」
「ああ、二人で撮るほうがいいな」

その日から、二人の携帯の待ち受け画面は一緒になった。

Fin