部活の休みの日曜日。
いつもなら前日から海堂が泊まりにきているのだが、今日は海堂は他の用事のために泊まりには来ていなかった。
久しぶりに一人で、データの編集などをしていて夜遅くまで起きていた乾は、昼近くに目が覚めた。
今日は、手塚も来ていないみたいなので、何をしようかと思案する。
取り敢えず顔を洗ってと…、そう思って気づく。
「コンタクト、これで最後だな…」
一日限りの使い捨てコンタクトの箱を見て、呟く。
テニスのしない時、乾はコンタクトやいつもの眼鏡より度の低い代わりに薄いレンズの眼鏡をしている。
テニスをするのには、あの眼鏡がしっくりくるだけで、それ以外の時の乾は案外オシャレで、眼鏡も多数持っていた。
「取り敢えず、買いに行くか」
最後のコンタクトをつけて、着替える。
鍵と財布を持って、玄関のドアをあけると、ドアの前に手塚と不二が立っていた。
「…珍しい、2ショットだな」
少しの間を持って、乾が口を開く。
表情は変わってなかったが、その間で、乾が驚いていたことを二人は気づいていた。
「下であっただけだ」
「驚いたよ。手塚が鍵を差し込もうとしたら、ドアが開くんだもん」
手塚が状況を簡潔に説明する。
不二が、今の状況を説明してくれる。
「出かけるのか?」
「あぁ、コンタクト買いに」
手塚の言葉に乾が答えると、
「乾って、使い捨てだっけ?」
と、不二が訊ねる。
「そっ、これ最後の二枚なんだよね」
両目に入ってるコンタクトを指して答える。
「で、お前らは?」
何しにきたのと問えば、
「参考書のことでちょっとな」
と手塚が答える。
「僕は、お昼のお誘いに」
ニッコリ笑って、不二が答える。
「昼?」
「うん。河村のとこがね、お昼の定食始めるらしくて…」
そう不二が乾の疑問に答えると、
「試食ついでに、奢ってくれるそうだ」
と、ここにくる間に聞いたことを、手塚が後を継いで答える。
「そりゃ、いい話だ」
「でしょ。でね、英二と大石と向こうで待ち合わせてるから、僕が君らを誘いに来たわけ」
手塚のことだから、乾の家にいると思ったんだよねぇ。
と、最初に乾の家に来た理由を話す。
「待ち合わせ時間は?」
コンタクトを買いに行く時間を考えて、乾が口を開く。
「コンタクトを買いに行く時間はあるよ」
不二が答えると、手塚が
「本屋に行く時間もあるか?」
と聞いてくる。
「大丈夫だよ」
ニッコリ笑って、不二が答えた。
「ところで、乾?」
三人仲良く、乾の行きつけの眼科へと足を運ぶ途中、不二が乾に声をかける。
「ん?」
半歩前に立って歩いていた乾が、不二を見る。
「海堂はどうしたの?」
不二にしてみれば、海堂もいるものだと思っていたので、いないことが気になっていたらしい。
「今日は、桃たちと出かけてるはずだけど」
不二の言いたいことを理解して、乾が説明を始める。
2.3日前に話は遡る。
その日、唐突に桃城が越前と越前と一緒にいる一年トリオに
「今度の日曜、親睦会を開くからな」
と言い出したのが始まりだった。
「親睦会って?」
そう聞かれて、桃城は説明する。
仮入部時の、林達や荒井のしたことで、どことなく2年と1年の間が上手くいってないような気がしていた桃城は、来年のこともあるし、今のうちに上手くいくようにしないとと思っていた。
そして今回、その時の標的にされた1年4人と、林・マサやん・荒井に海堂、自分を入れた2年5人で遊びに行こうと考えたのだ。
この時点で、海堂を覗く2年の許可は取っていたので、一番難関の海堂を最後にして、1年に話を振ったのだ。
「…ってことで、日曜、10時に駅前な」
4人から約束を取り付けて、桃城は最後の一人に向かう。
絶対に断るだろう海堂をなんとか来さす方法を一生懸命考えた桃城は、目的の相手を探す。
そして、
「ラッキー」
狙い通りじゃん。
と呟きながら、海堂の元に走っていく。
「お〜い、海堂」
乾と何やら話しているところに声をかける。
海堂は桃城を見た途端、嫌そうな顔をする。
「お前、今度の日曜、暇か?」
と、桃城が聞く。
「暇じゃない」
すると、即答で返事が返ってきた。
もうちょっと、考えてもいいだろうが!!
口に出せば喧嘩になるので、心の中に留めておく。
ここで喧嘩をしては、全てが水の泡になる。
同学年・後輩、両方に怖がられている海堂を、一番連れて行かなくては意味がないからだ。
「日曜、何かあるのか?」
返事をしたと同時に、用件は終わったとばかりに桃城を無視する海堂に、桃城がどう話を切り出そうかと思ってたところ、乾が助け舟を出してくれる。
よかった。やっぱ、乾先輩と一緒の時を狙って正解だったぜ。
桃城の考えとは、海堂が唯一言うことを聞く存在、乾といる時に話をすると言うことだ。
乾なら、自分の言いたいこともわかってくれるだろうし、海堂を説得してくれると踏んだからだ。
「くだらないことっすよ」
桃城が口を開こうとすると、海堂が冷たく言い放つ。
乾が桃城の言葉に興味を持ったのが、気に食わなかったらしい。
「人の話も聞かねぇで、決め付けんな」
「聞くまでもねぇだろうが」
「落ち着けって」
喧嘩を始めそうな二人に、乾が仲裁に入る。
「桃、海堂に話があるんだろ?」
二人の間に腕を差し込んで、制する。
「海堂も、話はキチンと聞きなさい」
「…はい」
乾に注意されて、大人しくなる海堂。
何で、こいつって乾先輩に対してだけは、こうしおらしいんだ。
他の奴に言われたら、絶対にキレてるぞ。
「で、桃。話は?」
海堂の様子を眺めていた桃城に、乾が声をかける。
苦笑している所から、桃城が何を考えたのかわかってるようだった。
「あのっすね…」
先ほど、1年にしたように乾と海堂にも説明する。
「桃も、考えてるんだな」
データを変えないとな…などと、ブツブツ言いながら乾がノートを開く。
何で、そこでデータ?
ってか、俺ってどういう風に思われてたんだ?
ノートに何事か書き込んでいる乾を見ながら、桃城は複雑そうな顔をする。
「で、来るよな?」
気を取り直して、海堂に向き直ると、やっぱり嫌そうな顔の海堂がいた。
「…用事あんだよ」
流石にここで興味ねえとは言えずに、一応、考えて海堂は口を開く。
用事があったのは確かだったし。
「俺との約束だったら、次でいいぞ?」
海堂の言葉に、乾がノートから顔を上げる。
「でも…」
その言葉に、海堂が不満そうに口を開く。
「桃の言うことももっともだしな。お前もたまには、同級生や後輩と交流を深めたほうがいい」
流石、乾先輩。
ここは自分が口を挟まないほうが上手くいくと悟った桃城は、口を開かずに心の中で拍手を送っていた。
「……」
乾の言うことももっともなのだが、それでも乾との約束を反故にしてまで行きたくはないソレに、海堂は不満そうに口を閉ざす。
自分は先輩と一緒にいるほうが大事なのに、先輩はそうじゃないのかよと、海堂の目はそう語っていた。
それに気づいた乾が、肩を竦める。
言いたいことはわかるんだけどね…
「いい機会だし、行っといで」
ポンとノートを海堂の頭に置く。
「…行きゃいいんだろ」
置かれたノートを振り払って、不貞腐れた顔でそれだけ伝える。
その姿にヤレヤレと苦笑する乾と、
「じゃあ、日曜、10時に駅前な」
伝えるべきことを伝えて去っていった桃城がいた。
その後、乾が海堂の機嫌を直すのに、物凄い労力をようしたとか……
「じゃあ、今日は2年と1年は仲良く遊びに行ってるんだね」
乾の説明を聞いた不二が仲良くを強調して言う。
「たぶんな」
あのメンバーで仲良く遊んでるのかは考えないようにしながら、乾が答える。
「何にしろ、交流を深めるのはいいことだ」
ふむと頷きながら手塚が口を開く。
「僕たちも、もっと交流を深めようか?」
手塚の言葉に、不二が面白そうに口を開くと、
「遠慮したいな」
苦笑しながら答える乾と、眉を顰める手塚がいた。
「どういう意味かな?」
そんな二人を見て、不二が聞くと、
「「別に」」
と、揃って答えを返す。
眼科に着き、無事コンタクトを購入して、次は手塚の希望の本屋に向かう。
「やっぱ、駅前のがいいか」
駅前の本屋のほうが種類も豊富なので、そちらに向かうことにする。
「不二、飯食った後はどうするんだ?」
向こうで菊丸と大石とも合流するとなると、そのまま遊びに行くことは必須で、乾は先に聞いておくことにした。
ろくでもない所なら、確実に断れる方法を考えなければならないからだ。
「水族館に行く予定」
「…魚食った後に、魚見るのか?」
複雑そうな声で乾が聞く。
隣の手塚も、複雑そうな表情をしていた。
「僕たちが見に行くのは、カワウソの赤ちゃんだよ」
ニッコリと後ろに暗雲を立ち込めて不二が答える。
「そうか、それは悪かった」
咄嗟に謝る乾に、すっと視線を逸らす手塚。
触らぬ不二に祟りなしという言葉は、この二人にも身についてることらしい。
「乾と手塚も来るよね?」
問いかけというよりは、どう考えても確認、下手すれば脅迫に近い不二の笑顔に、二人とも頷かざるを得なかった。
他愛もない会話をしながら、三人が本屋に入った頃、彼らが来たのとは正反対の方向から騒がしい団体がやってくる。
「ずりぃよな、興味なさそうな顔してたくせに、上手いんだからよ」
すっからかんになった財布を振りながら、桃城が愚痴る。
そう、親睦会を開いている1.2年メンバーである。
「絶対に、海堂の一人負けだって踏んでたのに…」
ずりーな、ずりーよと文句を言いながら歩く桃城に対して、海堂はそれなりに機嫌がよく、桃城の愚痴も聞き流している。
「でも、ほんとびっくりしましたよ。海堂先輩がボーリング上手だなんて」
1年トリオの一人、カツオが手放しに褒める。
「バカに負けるわけねぇだろ」
いつもより少しだけ得意そうな(それがわかる人間はここにはいないが)声で、海堂が桃城を鼻で笑って答える。
「んだと、マムシに言われたくねぇよ」
売り言葉に買い言葉の要領で、桃城が海堂のもっとも嫌いなあだ名を言う。
「マムシっていうなっつってんだろ」
その名を言われ、海堂が桃城に掴みかかる。
「おい」
「こんなとこでやめろって」
「落ち着けって」
喧嘩をし始めた二人を他の二年生たちが止めに入る。
乾や大石のように間に割ってはいることは出来ないので、後ろから二人を羽交い絞めにして離し、距離が開いたところで残り一人が間に立つ。
「少しは場所ってもんを考えてくれよ」
嫌な注目の集め方をしてる自分たちに気づき、桃城と海堂も暴れるのを止める。
自分たちの周りに人垣が出来ていて、どうしようと途方にくれる9人。
流石にこのまま注目を集めたままここにいるのも考え物なので、さっと目についた本屋に逃げ込むことになった。
「本屋に入ったのはいいけど、どうすんだよ?」
本屋に入ったところで、荒井が桃城に声をかける。
「う〜ん、取り敢えず腹も減ったし飯にするか?」
「どこで?」
「どっか」
林の言葉に、桃城が笑いながら答える。
ガクッとなる他の面々。
「桃〜、ちゃんと計画たててから誘えよな」
呆れながらマサやんが桃城に注意するが、
「何とかなるって」
と、桃城は至って簡単だった。
「仕方ねぇな」
桃城の性格を把握してる2年生たちは、その言葉で全てを諦めてしまった。
「そういや、買いたい本あったんだよ」
どこに行こうかと思案していた時、林が思い出したように口を開く。
「悪いけど、待っててくれよ」
それだけ言い残して、目的の本のコーナーへと走っていった。
残されたメンバーは、ここでボーッと待ってても仕方ないので、それぞれ、雑誌を立ち読みし始めた。
(…参考書)
他の連中が雑誌を読み始めるのを見て、海堂がこの本屋のフロア図を見る。
参考書のコーナーを見つけ、そこに向かって歩き出す。
前に乾に、海堂に合うだろう参考書を教えて貰ってたのを思い出したからだ。
ここくらいに大きければ、あるだろうと時間つぶしに行くことにしたのだった。
「これがいいんじゃないか?」
その頃、参考書コーナーに来ている青学三強たちはと言うと、
「それよりもこれなんかは?」
「それにするならこっちのほうが…」
「お前ら、俺で遊んでるだろう?」
「「とんでもない」」
と、乾と不二が手塚で遊んでいた。
丁度、二人でハモッている頃に、海堂が参考書コーナーにやってきた。
中学生の参考書のコーナーを探しキョロキョロとしていると、ある場所にだけ以上に人が集まっているのが目についた。
(なんだ?)
どうも自分の欲しい参考書のありそうな所で、どうしようかと視線をさ迷わせるが、
「ねぇ、見た?すっごく格好いいの」
「三人とも、全然タイプが違うんだけど…」
「あの人、すっごく背高くない?」
「絶対、180越えてるよ」
「でもさ、あそこって中学生のところでしょう?」
「嘘、あれで中学生?」
と、近くの女子高生たちが騒いでるのを耳にして、
(なんか、あの人たちみてぇ…)
一個上の、三強と呼ばれる先輩たちを思い出した海堂は、人ごみを掻き分けて目的の場所に行こうとする。
「…乾先輩」
どうも彼女たちは遠巻きに見ているみたいで、話題の三人との間と人ごみは少し距離があった。
海堂がそこを抜けると、少し離れた所に見覚えのある人物が三人。
うち一人はいつもと違って眼鏡をしていないけれども、その姿すら海堂にとってはいい加減見慣れたもの。
逢いたいなと思ってた人を目の前にして、小さな声でその人の名を呼ぶ。
「海堂…」
小さな声だったにも関わらず、彼の人の耳には届いたようで、乾がゆっくりと振り返る。
驚いたように、一瞬目を見開いて、すぐにゆっくりと笑みを浮かべる。
「桃たちと出かけてたんじゃないの?」
乾の声に海堂の存在に気づいた不二が、海堂に問う。
「そうっすけど」
「…いるのか?」
キチンと頭を下げて三人の元にやってくる海堂に、手塚が尋ねる。
「そこで、雑誌読んでます」
視線だけを雑誌コーナーに向けて答える。
「先輩たちこそ、何やってんすか?」
何冊もの参考書を抱える手塚と、両手に色んな参考書を持っている乾と不二を見て、海堂が不思議そうに聞く。
「手塚の参考書を見に」
乾が真っ当な答えを返すのに、
「僕は手塚で遊びに」
と、不二がちゃかし、
「こいつらに遊ばれてたところだ」
手塚が真面目な顔して真面目に答えた。
「くくっ…」
「相変わらず、面白いね、手塚…」
手塚の答えに、どういう返事をしていいのかわからずに戸惑っている海堂。
そんな様子を眺めながら、本棚に手をついて笑っているのは、不二と乾だった。
海堂の出現で、手塚で遊ぶのを止めた乾と不二に、一番、自分にあった参考書を見立ててもらい(見立ててっていうか?)、手塚がレジへと向かった。
「…部長!!」
手塚が並んだレジの前には、目的のものを見つけた林が並んでいた。
ふと後ろから迫る威圧感に目を向ければ、そこにいたのは我らがテニス部部長様で、思わず林はピンと背筋を伸ばして、
「ちーっす」
と、いつもの部活の時の声で挨拶をして、直立不動でたっている。
林の声は、雑誌を読んでいた面々の耳にも届いていて、
(((((((部長!?)))))))
雑誌を置いて、7人は林のいるレジへと向かった。
「…あぁ…」
そして、目の前にいた林に、突然、挨拶をされた手塚はと言うと、視線を泳がして乾を探していた。
「手塚が探してるみたいだけど?」
それに気づいた不二が乾に声をかける。
海堂、乾、不二の三人はレジから少し離れた所で成り行きを見守っていた。
「あんまり行きたくないんだけどね…」
やれやれとぼやきながら、手塚の所に向かう。
「少し、離れてたほうがいいよ」
そう言う不二に従って、海堂は不二とともに少し離れたところでついていった。
「部長、お先にどうぞ」
カリスマ的部長を待たせて買い物など出来るわけがない、哀れな一般部員はカチコチに固まっていた。
対して手塚は…
「林だよ」
横にきた乾に、耳打ちされて、ようやく名前と顔が一致する。
実はこの部長、人の顔と名前を覚えるのが苦手だったりする。
というか、乾といるので、初めから必要最低限にしか覚える気がないのだ。
乾は、部員全員のデータを持っているので、名前はおろか性格やテニスプレイも把握している。
わからなければ乾に聞けば済むので、手塚にしてみればわざわざあれだけ大量にいる部員を覚えようという気にならないのであった。
そして今も見覚えはあるが名前の知らない後輩に挨拶されて、どう返事をすべきか迷って乾を探していたところだったのだ。
「気にすることはない。先にすませればいい、林」
乾に教えてもらった。目の前の後輩の名前を呼ぶ。
すると、
「俺の名前、覚えてて下さったんですね」
と、林は感激していた。
その時、事実を知っていた乾は笑いを噛み殺すのに必死で、離れたところで、けれど声はしっかりと聞こえるところにいた不二と海堂は見えないように笑っていた。
「うわっ、マジでいる…」
林の声を聞き駆けつけた7人が、手塚を目にして立ち止まる。
「チーッス」
ピタッと立ち止まった後、越前と桃城は軽く、後の5人は林と同じように挨拶をする。
「……」
視線を7人に向けてから、乾を見る。
「右から、加藤、堀尾、水野、越前。これがうちの1年。それから…」
苦笑しながら、順番に全員の名前を手塚に耳打ちして、教える。
乾に教えて貰って、ふむと納得してもう一度、部員を見る。
緊張して固まっている一般部員に対し、桃城・越前のレギュラー組は平然としている。
「あっ、海堂。どこ行ってたんだよ」
桃城が少し離れたところにいる、海堂を見つける。
「不二先輩も来てたんすか?」
海堂の横にいる不二に気づいた越前が声をかける。
((((((青学No.1にNo.2…))))))
越前と桃城が向かった先にいる不二を見て、固唾を飲む一般部員。
「そう、手塚の付き添い。ねっ、乾」
レジを済ませた手塚の元に歩み寄りながら、その横の乾に向かって不二は笑いかける。
「「「「「「「「乾先輩??」」」」」」」」
不二の言葉に驚いたように8人が声をあげる。
「やっぱ、気づいてなかったな」
唖然と乾を見る8人に、乾は苦笑してみせる。
「乾先輩の眼鏡外した顔、初めて見た」
「いい男っすね」
「褒めても何も出ないぞ、越前」
「残念」
「げっ、乾先輩って…」
「むちゃくちゃ、男前じゃん」
口々に言いたいことを言ってく後輩たち。
「そんなに驚くことか?」
と、頭を傾げていう乾に、後輩たちは
((((((((驚くに決まってんだろ!!))))))))
心の中で、叫んでいた。
そして、菊丸の言う、
「何も青学三強ってのは、テニスにおいてだけじゃないにゃvv」
の意味を、心底理解したテニス部員たちだった。
レジの前で騒いでいても店の迷惑だろうと、外に出る。
「先輩たちは、昼どこで食うんすか?」
どこで昼にするかを決めていなかった桃城は、丁度いいので聞いてみることにした。
「僕らは、河村んとこだけど?」
「タカさんとこっすか?」
河村の家は、桃城も行ったことがあるので知っているが寿司屋だ。
「昼から寿司なんて、豪勢っすね」
「そう?」
「そうっすよ」
不思議そうにする不二に力説する桃城。
桃城からしてみれば、中学生が昼から友達同士でだけで寿司屋に行くなんて、考えられないことであった。
普通の家に生まれた桃城は、寿司は誕生日などの行事の時に家族で食べに行くものというのが普通だった。
それは、他の部員たちも同じだったらしく、桃城の言葉に賛同している。
ただし、普通じゃない家の越前と海堂は別で、この二人と三年は複雑な表情で彼らを見ていた。
‘〜♪’
「はい」
タイミングよく、不二の携帯が鳴る。
「河村、どうしたの?」
かけてきたのは、河村らしい。
「うん、乾のコンタクトと手塚の参考書買ってて…」
どうやら、待ち合わせ時間に遅れているらしいことがわかる。
「…本屋でね、桃たちにあっちゃって…」
後輩9人に偶然出会ったために、遅れたと説明している。
「ん、まだみたいだけど…えっ?河村、それは…」
電話の向こうで河村が何か言ってるらしく、不二が困ったように名前を呼ぶ。
「…うん、わかったよ。河村がそういうなら…うん、じゃあ…」
不二が携帯を切って、溜息を吐く。
「不二?」
「何かあったのか?」
不二の様子に、乾と手塚が心配そうに声をかける。
「…あのね、河村のお父さんが、奢ってあげるから、全員おいでって」
不二から話を聞いた河村が、父親に話をしたところ、全員連れて来いということになったらしいと、不二が説明する。
「全員って、俺たちもっすか?」
確認するように桃城が訊ねる。
「そう、ここにいるメンバー全員」
流石にこの人数の昼を奢らすのは気が引ける不二は、複雑そうに桃城に答える。
「やっり〜」
嬉しそうにはしゃぐ後輩たちを見ながら、先輩三人は深い溜息を吐く。
(((さて、どうしたものか?)))
総勢14人分の昼食代を奢らせることになって、流石に青学三強をいえども罪悪感を隠すことが出来なかった。
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