薫の災難 1
「ふ、ははははは……」
「……」
部屋に笑い声が鳴り響く。
乾がベッドに突っ伏してお腹を抱えて笑ってる。
その横では、風呂上りの海堂がぷぅっと頬を膨らまして、乾を睨んでいた。
「ゴ、ゴメン…ほんとに災難だったな…ハハっ…」
「…もういい、帰る…」
何とか笑うのをやめながら、海堂に話しかけるが、途中で思い出して、また噴出す。
さっきから、その繰り返しに海堂が帰ろうと立ち上がる。
「俺が悪かったよ」
ゴメン、ゴメンと眼鏡を外して、眦に溜まった涙を指で拭う。
「う〜」
海堂のほうを向いて自分の横をポンポンと叩く乾に、簡単には言うことを聞くのもしゃくで、躊躇する。
「もう、笑わないからさ」
手を掴まれ、軽く力を入れて引かれる。
「…笑いごとじゃなかった…」
促されるままに乾の隣に座る。
「あんたには笑いごとかもしんないけど…」
部活後のロードワークの途中、三回も人の物を盗むひったくりのおかげで、桃城には自転車で轢かれ、リズム野郎には背中を踏みつけられ、バックは頭と顔を直撃するし、交番には連れていかれ、コーヒーは頭から被る上に、ボールが当たって、落ちるし…
「ぜってー、あの野郎シメル」
結局、河村のおかげでボコボコに出来なかったひったくりを思い出して、忌々しげに呟く。
「災難だったね」
ボロボロになって家にやってきた海堂を思い出す。
人の顔見た途端、悔しかったのか、哀しかったのか半泣きになってしまうから、慌てて風呂に入れて、話を聞いた。
事情を聞いて、つい笑ってしまったが…(だってさ、悪いけど、そうそうそんなマンガみたいなこと起こらないって。実に興味深いデータじゃないか)
「後で、桃城は俺がしめとくから」
とりあえず、自転車で轢いてくれた桃城は確実に。英二とタカと越前は…それなりに…
ヨシヨシと頭を撫でながら。平気で不穏なことを言い出す乾。
だが、散々な目にあった海堂は、それを止めようとは思わなかった。
「今日は泊まってくデショ?」
スルッと擦り寄ってきた体を愛しそうに抱きしめて囁く。
海堂はそれを聞いて、乾の胸に顔を埋めて頷く。
「たっぷり、慰めてあげるよ」
海堂の頬を擽って、海堂が顔をあげたところで唇を奪った。
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薫の災難 2
「…タカさん、僕以外の人を抱き上げてるってどういうこと?」
海堂からひったくりを守る為に、ひったくりを持ち上げたところに、声をかけられた河村。
「…不二…」
どうしてここにいるの?
恐る恐る視線を下げると、既に開眼した不二が目の前に…
「不二、これはね…」
思わず、ひったくりを投げ下ろして、不二にわたわたと言い訳する。
「タカさん、言い訳は見苦しいよ」
「違うんだよ、不二」
冷たく見上げてくる不二に、何とか怒りをといてもらおうとする河村。
その横では、投げ飛ばされ地面で打った体を摩りながら立ち上がるひったくりと、
「てめぇのせいで…」
そのすぐ前で、指の関節を鳴らし、ふしゅう〜と息を吐く海堂がいた。
「わ、わ、ちょっと…俺が悪かったです…」
恐怖に怯えながら後ずさるひったくり。
逃げようと後ろを振り返ろうとしたとたん、ガシッと肩を掴まれる。
「ひったくりとは感心できんな」
「部長」
いつもの調子で話す手塚に、驚いたように海堂が声をあげる。
「海堂、暴力沙汰はゴメンだぞ」
「そうそう、大会出場停止は痛いからね」
「乾先輩!!」
手塚の声に続いて乾の声が、頭上から降りかかる。
バッと後ろを向くと、片手をあげて乾が立っていた。
「そういや、海堂。いいものあるんだけどさ…」
そう言って乾が取り出したのは、何ともいえない色をした飲み物らしき汁。
「あの、それ…」
1歩、後ろに下がりながら海堂が怖々と訊ねる。
「これ?これは、乾特製野菜汁&ペナル茶スーパースペシャルブレンドだけど?」
また、何てもんを…
周りで騒いでいた連中が、一瞬、静かになる。
それほどまでに、その物体は強力なものらしい。
「これを海堂にやるから、好きに使えよ」
「好きにって…」
こんなもん、飲みたくねぇし…
「例えば、目の前で喉が渇いてそうなお兄さんに飲ませてあげるとかさ」
乾の言葉にハッと海堂が顔をあげる。
乾と手塚を交互に見やると、二人とも頷く。
そして…
それを見ていた人たちが語るのは、さながら地獄絵図のようだったと
ただ、それだけだった。
後半、ギャグです。
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G131より…
〜献身〜
「データ、揃ってんすか?」
気だるい体をゆっくりとした動作で向きを変え、自分を抱きしめる男へと向き直る。
「…難しいな」
額に額をくっつけてきた恋人の瞳を見て…これくらいの至近距離だからこそ見つめることが出来る裸眼の状態で…素直に言葉を紡ぎだした。
「向こうは、関東大会で初めてベストメンバーでくるからな…」
関東大会までは、シングルスにのみ正レギュラーを配置してくる。
その上、ダブルス2勝にシングルス1勝というパターンでくるために、残りのシングルス二人もそう滅多にプレーをしない。
「去年通りのメンバーなら、誤差を修正するだけで済むんだが…」
メンバーも入れ替わってるだろう、あの二年の樺地とかいう男の存在だけで予測できる。
「侑のとこのダブルスなら、去年と同じパートナーだろうから問題ないけどね」
だが、個人的な予想としては、あのペアは間違いなく黄金ペアとあたるはずだ。
「もう一組のダブルスは、全く予測つかないな」
それが彼の素直な言葉であった。
額をつけたまま、裸眼でも表情が窺えるほどの至近距離で、苦笑混じりに話す。
恋人の機嫌を損ねるような言葉だろうと思って、恋人を見ると、意に反して彼は笑っていた。
「すぐ、取れるんでしょ」
データ…
「3ゲーム以内にはね」
笑いながら言い切る恋人に、負けたよと返して手の内を曝す。
怒って拗ねたところで明かそうと思ってた種を、初めから気づいていたなんて、成長したんだなと思ったけど、言ったら間違いなく拗ねるので心の内にとどめておく。
「なら、俺が取らせてあげますよ」
「うん?」
「あんたが、データをたくさん取れるように、ボールをたくさん色んな場所に、色んな球種で返してやる」
「…頼もしいな」
恋人の言葉に彼は笑みを零す。
自分の腕の中で、より強く咲く花に愛しさがこみ上げる。
「あんたのためなら、捨石にだってなってやるよ」
不適な笑いを浮かべる。
「その代り、絶対に勝つぞ」
手をギュッと握ってみれば、より強い力で返される。
「あぁ、約束する」
手を離して、腕を腰に回して抱きしめる。
愛しいと思う感情をそのままその腕に込めて
「関東大会初戦、初勝利を君に誓うよ」
彼は高らかに宣誓した。
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デートだ!
そろそろいるかな?
乱闘もなく、3校のテニス部員が揃ったストリートのコート。
折角だから打って行こうかと、乾に呼ばれてきていた大石たちも参加しに行こうとしたところ、乾だけが何事か呟いて階段を降りていった。
乾?
1人コートとは逆のほうに向う乾に不二が声をかける。
ああ、海堂が来てるか見にいったんじゃないかな?
乾に不二の声は聞こえてなかったらしく、階段降りていく乾の代わりに河村が答えを返す。
海堂、遅かったな
階段を降りようとすると、海堂が立っているのが見えた乾は海堂を呼ぶ。
先輩…デートって…
ドキドキと緊張した面持ちで、落ち着け落ち着けと心の中で繰り返しながら、海堂が乾に意を決して訊ねる。
ああ、デートね。終わってたよ。
はぁ?終わってた?
ああ、俺たちが見に行ったときには、既に帰っていてね。
…何の話っすか?
…デート
誰の?
桃と越前と不動峰の部長の妹の
…………
あんなに悩んだ俺は何だったんだ!!
乾と話すことでようやくわかった真実に海堂は頭を抱え込んだ。
海堂?
………な。
え?
紛らわしい言い方すんじゃねぇ!!
紛らわしい………?
フシュー
ああ、もしかして俺がデートに誘ってるって思った?
う…
そっか、海堂は俺とデートすると思ってここに来たのか。
ちが…
デートする?
へ?
デート
な、なんで……
この上はストリートのテニスコート。
手塚以外のうちのレギュラー陣に不動峰の神尾君と伊武君にルドルフのアヒル君と不二の弟君に観月。
いいデートコースだと思わない?
ニコニコと頭を抱え込むのはやめても座ったままの海堂の横に座り込んだ乾。
デートという言葉は腑に落ちないが、その誘い自体は魅力的なもので
……今日だけだかんな。
チッと一回舌打ちして、スタスタと階段を上がっていく海堂。
乾も面白そうに笑いながら、後に続いていく。
最上段に足をかける直前、海堂が振り向いた。
全員、ぶっ倒してやりましょうね、乾先輩
………ああ、そうだな
デートしてくれるわけだ。
別にシングルスでもいいのに、わざわざダブルス組んでくれるってことは。
本当に海堂は面白いな。
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レギュラーの座は誰の手に?
部活終了後、部室でデータノートを出して何やら書いている乾。
周りの部員はいつものことだと思って気にもしないが、書き終わった紙を破ってるのを見た海堂だけは新しいメニューだと思って期待したような瞳で乾の背後に近づく。
「先輩、新しいメニューっすか?」
乾の背中にくっついて、破られた紙に目を向ける。
「……先輩……これ、少ない……」
その中に書かれていたのは、紛れもなく自主練用のメニューだったのだが、何故だかいつもの海堂のメニューの半分以下しかない上にメニューの内容も基本に戻ったようなものばかり。
「ああ、それはね海堂のメニューじゃないから。少なくて当たり前」
メニューの少なさにムウッと口を尖らせた海堂の不平に、乾が気にも留めずに答える。
「…………じゃあ、誰のっすか?」
低い機嫌が最下層まで低下した海堂の声が部室に響き渡る。
それまでは和気藹々と談笑していた全部員たちだったが、その前の乾の発言よりずっとシンと静まり帰っていた。
そして、今、レギュラー陣の中の一部を除いた部員たちはまだ着替えの途中である自分たちに心の底から後悔していた。
今から起るであろう痴話げんか。
自分たちはこれから嫌でもそれに巻き込まれるのだと。
「これ?これは荒井の…」
「俺っすか?」
いきなり自分の名前を呼ばれた荒井。
びっくりしたように乾のほうを向く。
「うん。荒井も頑張ってるしな。でも、自分の体力をまだはっきりと自覚してないだろ?だから今日みたいに鉛2枚ですぐに体力を消耗することになるからな。しばらくはこれに書いてる通りにしてみるといいよ」
「あ、有難うございます」
はいと手渡されたそれを大事そうに握って、勢いよく頭を下げる荒井。
「後、池田と林も…」
「え?俺もっすか」
「有難うございます」
そう言ってテーブルに置かれていた紙を2枚取って、それぞれ池田と林にも渡していく。
「それと最後に…」
テーブルの上のメニューは残り1枚。
次こそはと期待に満ちた海堂の瞳。
鈍い乾はそれに気付かずに、その紙を取って……
「今日はよく頑張ったね。鉛のハンデがあったとしてもあれだけくらいつけたら上出来だよ」
「あ…はい。有難うございます」
今日、荒井と試合したカチローに渡した。
カチローの髪をくしゃりと撫でて。
嬉しそうにメニューを見る4人。
その姿に嬉しそうな乾。
それ以外の人物は、既に半泣になってこの部室に漂う恐怖に耐えていた。
勿論、そんなもの気にもならない人物も若干がいて、彼らは楽しそうに傍観を決め込んでいた。
「カツオ君、堀尾君、リョーマ君見て!!僕、僕…乾先輩に練習メニュー貰ったよ。僕一杯頑張る!!」
嬉しそうにいつも一緒にいる友達に声をかけるカチロー。
2年3人は一緒に固まってお互いのメニューを見せ合っている。
「カチロー……」
「カチロー君…後ろ…」
声をかけられたカツオ、堀尾はビクビクと怯えながらそっとカチローの後方を指す。
「後ろ…?………ひっ!!」
「ん?…っ!!」
「げっ…」
「!!」
後ろを向いたカチローの小さな悲鳴に気付いた荒井たちも視線を後ろへ向けて息を飲む。
「いい度胸じゃねぇか…」
そこにはいつも以上の睨みを効かせた海堂が、不二直伝の暗雲を立ち込めてたっていた。
「海堂?どうかしたか?」
海堂を見た瞬間、何が海堂を怒らせたかわかった4人に対し、乾は全くわかってないようで心配そうに海堂に声をかける。
「……何で?何で先輩はあいつらにメニューを作るんっすか?」
乾が声をかけた瞬間、海堂の回り…しいては部室に立ち込めていた空気が怒りから悲しみへと変化した。
「え?頑張ってるし。俺たちが引退した後を考えてだけど…」
「俺には、俺から頼まないとメニュー組んでくれなかったじゃないですか。なのに、何であいつらには先輩が自分から動くんですか」
「だって海堂は人に頼るの嫌いだろ?」
「でも、だからって…先輩、本当は今のメニューやった奴の中に新しく好きになった奴がいるんだ…だから、自分からメニューあげたり…俺のこと鬱陶しくなって…」
「海堂?何でいきなりそんな話になるんだ?」
「だって先輩、頼まれてないことしない人だったのに…」
「だからって、いきなり浮気扱いはないだろ?」
「だって、だって…」
乾の目の前で海堂は一人、自分の考えに納得して涙を流す。
もう言ってることが支離滅裂だとかは気にもならないようだ。
「あのね、俺はお前のためを思ってメニュー作ったの」
「俺の?」
「そう。俺らが引退したら大変なのは今レギュラーの1.2年のお前たちでしょ。これから嫌でも他の部員を強くしていって引っ張っていかなきゃならない」
ポロポロと涙を零す海堂を抱き締めて乾が優しく話す。
「だから、少しでもそういう負担を減らしてやりたいと思ってメニューを組んだんだよ」
「本当に?」
「本当に」
「俺がヤになったんじゃない?」
「違うよ。海堂だけが好きだよ」
「じゃあ、証拠…」
クイと乾の服の袖を引っ張って、うんと唇を少し突き出して目を瞑る海堂。
乾がさっと視線を部室内に走らせる。
瞬間、全員が前をそこから逸らせて見えないように顔の位置を動かした。
「ん…」
それを確認してから乾はそっと海堂にチュッと軽いキスをした。
「後は俺の家でね」
「はい」
額をコツンとくっつけて囁けば、海堂は嬉しそうに頷いた。
部員たちの悪夢はこうして、嬉しそうに去っていく二人の背中とともに幕を閉じた。
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薫、リョーマになる
乾 貞治15歳
部活の休みの日も彼はデータ収集に余念がなかった。
だが、決して彼はストーカーをしていたわけでも、データ収集に出かけていたわけでもない。
そう、彼がそこにいたのは偶然だったのだ。
そして、偶然、海堂も立ち止まっていたために、乾は興味を引かれて立ち止まっただけだった。
「海堂…」
そう乾は海堂に声をかけようとした。
だが、海堂の足元に犬が寄っていったために、乾は声をかけそびれたのだ。
「海堂は、犬も好きなんだな」
どこからともなくノートを取り出して書き出す乾。
その前では、犬の飼い主が酷い誤解をして犬を連れていってしまっていた。
そして、乾はいつの間にかノートからデジカメへと持っているものを変えていた。
「おや、あれは…越前…」
やっぱり声をかける暇もなく、海堂は越前に遭遇した。
「何をやっているんだ?」
そして二人でお互いの進路を塞いで意地になって、走っていってしまった。
「ふむ、面白いことになりそうだな」
データ収集が好きな乾は迷いなく、二人の後をこっそりとついていった。
その後
「ふ…ははははは…ははっ…」
滅多に見れない乾の爆笑姿を、乾がいることに気付いていれば見るコトが出来たらしい。
しかも、腹を抱えて笑っていたにも関らずに乾は、デジカメを離すことなく写真を撮ることは忘れなかった。
その日の夜
散々な目にあった海堂は…最後にはよかったが、それまでは散々だった…やはりというか乾の家に来ていた。
「疲れた…」
ボロボロになってやってきた海堂。
お風呂上りの海堂はベッドに身を投げ出して、乾のマッサージを受けていた。
「大変だったな。でも、可愛いファンが出来てよかったじゃないか」
「…それは、まあそうなんっすけど…?先輩?」
「ん?」
「何で知ってるんっすか?」
「何を?」
「何をってその…」
「海堂が犬を触ろうとしたら飼い主が来て、誤解されて連れて帰られたこと?それとも、越前と張り合ってテニスコートまで走っていったこと?それとも、越前と間違えられて…」
「見てたんっすか!!」
「うん」
スラスラと今日の海堂の出来事を順を追って話していく乾に、思わず海堂は起き上がって詰め寄る。
「いつから?何で声かけてくれなかったんっすか?ああ、そんなことより見てたって…やっぱ、あの試合も…」
「海堂が犬と遊ぼうとしてる辺りからずっと、試合が終わる頃まで。声はかけるタイミングをことごとく逃した結果、かけれなかっただけ。あの試合は可愛かったよ、海堂。何なら、メニューにツイストサーブとドライブBと片足のスピリットステップも組もうか?」
「いい。見て…じゃあ、あの情けない姿も…全部…」
乾にあの情けない姿を全部見られていたということに海堂はショックで錯乱状態になっている。
「あれは仕方ないよ、海堂は頑張ったじゃないか」
「そんなの…先輩に見られてた…」
よっぽどアレを見られてたのがショックになって海堂はポロポロ…いやもうそれは滝の如くダーっと涙を流す。
「ああ、薫。落ち着いて、な…」
「うー、だって、だって〜」
「ああいう姿も可愛かったよ」
「そんなの褒めてない…」
「どうしたら泣き止んでくれる?」
「ちゅう…」
エグエグと泣きながらチュウとだけ繰り返す海堂。
乾はその都度、海堂が望む通りにキスを繰り返した。
泣き止むまでと繰り返されるそれは、途中から嘘泣きになっても、そして、それをわかっていても繰り返されていた。
「ちゅう…」
ショックの余り、薫君まで泣いてる…
続いてもう1本
「面白そうなことになってるね」
「乾先輩…」
越前が凭れかかる木の後ろからひょっこりと現れたのは乾で、そのまま越前の横まできて立ち止まる。
「あっれー、乾じゃんどうしたの?」
「うん?ちょっと打ってこうかなと思ったんだよ。そしたら先客がいた」
「ねぇ、君は何ていうの?」
菊丸に声をかけられ、乾が菊丸の横で話しているとき、越前は越前ファンの男の子に名前を聞かれる。
「俺…」
困ったように視線を彷徨わせる越前。
海堂が越前である以上、自分の名前を明かすことは出来ない。
「あ…乾先輩…」
「お、乾先輩じゃないっすか」
「やあ、桃に…越前…」
乾の存在に気付いたコートの二人。
海堂は嬉しそうに瞳を輝かせていたが、乾が自分のことを越前と呼んだのを聞いて不機嫌そうにムッとした表情に変わる。
「俺は、海堂…海堂薫」
「おい」
「てめっ」
それを見た越前は、いいことを思いついたとその少年に海堂と名乗って、乾の隣に行く。
そして、ギュッと乾の手を握って海堂に向って勝ち誇った笑みを向ける越前。
「乾先輩とは公私ともに大事なパートナーなんだよ。ね?先輩」
「まあ、確かに海堂は公私ともに大事なパートナーだけどね」
越前の言葉に苦笑する乾。
「おい、え…」
「てめぇ…えち…」
「海堂だよ」
越前の言葉にギョッとする海堂と桃城。
止めようと口を開けども、越前の言葉に口も止まってしまう。
「先輩、ここはこいつらが練習してるから出来ないっすし、俺たちは二人で他のコートに行きません?」
「そうだな、海堂と打つのは有意義だな。行くか。じゃあ、後でな」
「頑張って下さいね、二人とも」
「おい」
「ちょっと、待て!!」
止める二人の声も聞かずに、消えていく乾と越前。
「こうなりゃ…」
「こんな試合…」
「「とっとと終わらせてやる」」
「二人ともやる気だにゃ〜」
「とっとと負けやがれ、バカ桃」
「てめぇこそ、さっさとくたばれ!!マム…越前!!」
そうして壮絶なバトルが繰り広げられた。
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