想いを込めて
紅葉を空へ放ってご覧
そしたらね、紅葉が君を
運命の人の下へ導いてくれるから
2years ago
テニスが大好きで、強くなりたくて、中学校受験をすることに決めた。
家から歩いてこれる距離にある青学は、テニスの強豪校と言われていて、いつか自分もそこでテニスをしたいと望んだ。
だから、今こうして家にいるのは仕方ないこと。
「薫、お勉強はかどってる?」
軽いノックの後に、母親が顔を覗かせる。
「…ボチボチ…」
「おやつの時間よ、休憩しましょ」
ソファから顔だけをドアに向かせて、海堂は難しい顔で答える。
「薫は集中型だから、合間に休憩いれなきゃ、しんどいわよ」
「うん、わかった」
「じゃあ、お母さん先に降りてるから」
「うん」
母の言葉に、さっきからどうも集中力が途切れ始めていた海堂は素直に、その言葉を受け止めて、居間に向う。
海堂は現在、小学校6年。
冬に青学の受験を控えた大事な時期だ。
青学は結構な名門校で、それなりに勉強しないと合格は難しい。
合格圏内ではあるものの、いつ何に足元を掬われるかわからないので、勉強はキチンとしていた。
その代り、テニスが出来ないのだ。
勉強の合間の息抜きに、ランニングだとかトレーニングは出来てもテニスをすると時間を忘れてしまうので、今は自分に言い聞かせてしないようにしている。
「…何してんだ?」
居間について、庭を見れば、弟の葉末が紅葉を一杯抱えて空に放り投げていた。
「あ、お兄さん」
庭一面に散らばった紅葉を見て、残念そうに溜息をついていた葉末が、海堂の声に反応して、近づく。
「何やってんだ?」
「紅葉遊びです」
「紅葉遊び?」
「はい。想い込めて、紅葉を空に放りなげると、運命の人の元に導いてくれるんです」
「…そっか」
「そうだ、お兄さんもやってみませんか?」
「え…俺は…」
「あら、いいわねぇ」
そんな少女趣味な遊びしたくねぇ。
本音はそうなのだが、可愛い弟が楽しそうにしてるので言えなかったが、せめて適当に断ろうとしたら、少女趣味な母親の声に遮られて、海堂は自分がその遊びをしないといけないことを悟った。
「…やっても、飛ぶわけねぇよ」
「なんですか?」
「やってみないとわからないわよ」
それでも何とか切り抜けたかった海堂は、苦し紛れに呟いて見るが、サラリと二人の反論にあった。
「でも、葉末は飛ばなかったんだろう」
「はい」
「葉末はまだ小さいから、運命の人にはまだ出逢えないだけよ」
「そうですか?」
「そうよ。葉末も大きくなったら、きっと出逢えるわ」
「俺だって、まだ小学校だし…」
「それはやってみないとわからないでしょ?」
葉末と母の会話に、逃げ口上を探す海堂だが、母の一言に一蹴される。
「はい、お兄さん」
「頑張って」
何が頑張ってだ。
弟に紅葉を渡され、母に応援されて、逃げ道を失った海堂は諦めたように溜息をつく。
『もう、どうにでもなれ』
半ばやけくそ気味に、心の中で叫んで、紅葉を放り投げる。
「あっ!」
「あら」
「嘘…だろ」
「「飛んでる」」
放り投げて、落ちてきた紅葉。
終わったとホッとしたような海堂の視線に、空に浮かぶ紅葉。
それを見てドクンと大きく跳ねる心臓。
「薫、後でお話聞かせてね」
「頑張ってください」
母と弟の声を遠くで聞きながら、海堂は無意識に紅葉を追って走り出していた。
「どこに……行くんだ?」
一枚だけ、ヒラリヒラリと飛ぶ紅葉から視線を離さずに走り続ける海堂。
風もないのに、一枚だけ飛び続けるソレを追い続けて、一体どれくらいたったのだろうか…
「あっ」
海堂の視線の先、丁度角の辺りで紅葉が落ちる。
「わっ」
「えっ?ああっ!!」
ドシン
大きな音が響いて、海堂は誰かにぶつかって倒れた。
「大丈夫?」
「って……あ!スイマセン」
頭上から降ってきた声に驚いて顔をあげれば至近距離に、人の顔。
どうやらぶつかった拍子に、相手の胸の中に倒れこんだらしい。
「いいよ。前方不注意はいただけないけどね。こんな可愛い子に倒れられてきたら怒れないな」
「可愛いって…俺は男っす」
「うん。腕の中にいるからね、それはわかるよ」
「あっ…」
相手の学生服をきた青年の言葉に、海堂はバッと勢いよく立ち上がる。
それに伴い、相手も同じように立ち上がった。
「何に、気を取られてたの?」
「え…あ、紅葉…」
青年の問いかけに、自分が何で走ってたのか思い出した海堂は紅葉を探すようにキョロキョロする。
「紅葉って、コレ?」
「そ…そう…って、ああっ!」
「え?何、どうしたの?」
「…あ、いや、何でも…」
「そう?コレ君の?」
「一応」
「そっか、じゃあ返すよ」
「…どもっす」
青年の手にある紅葉に、海堂が驚いたように声をあげる。
だが、それについて問われたところで海堂には答えることも出来なくて、適当に誤魔化した。
返された紅葉を見つめて、次に目の前の人を見つめる。
大きな人だな。
学ランってことは高校生かな?
格好いいよな。
体格とかもよさそうだし、男から見ても羨ましくなるような肢体してる。
それに…
今は、眼鏡に覆われて見えないけど、ぶつかった瞬間見えた、瞳…素顔はかなり格好よかったよな…
「どうした?」
「…!!や、何でも…」
思わず、相手に見惚れていた海堂は、慌てて首を横に振る。
言えない。
いくらなんでも、アンタが運命の人かもしれないので見てましたなんて。
俺も相手も男なのに…
本当に当たるのか、コレ?
…わけねぇよな。
「大丈夫?」
「はい」
「次は、上ばっかり見ないで、前見て歩こうな」
「わかってます」
「じゃあね」
「あっ…」
「ん?」
「スミマセンでした」
「いいよ、バイバイ」
優しく笑って、手を振って去っていく背中を見つめながら、海堂はギュッと紅葉を握り締める。
離れていく瞬間、確かに感じた寂しい・哀しいという感情。
「こんなくだらねぇもん、当たはずねぇよ」
そう口に出して気付いた。
自分は、当たって欲しいと思っていると。
「お帰りなさい」
「どうでした?」
「どうもしねぇ」
家に帰ったら、待ってましたとばかりに母と弟に聞かれる。
それにそっけなく返事して、海堂は自室に戻った。
「何の知らないんだよな…」
手の中の紅葉を見つめて、そっと呟く。
「導いてくれよ」
紅葉にそっと唇を寄せて、海堂は紅葉を大事そうにしまった。
紅葉に導かれた運命。
海堂が運命に出逢うのは、数ヵ月後の春。
舞い散る桜の下に落ちる、一枚の紅の紅葉に導かれて
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