紅葉遊び V



想いを込めて
紅葉を空へ放ってみる
まだ、紅葉は君を
運命の人を導いてくれるだろうか


This year


また、紅葉が舞う。
秋になって、俺は部活を引退した。

夢を追っていた。
大切な仲間たちと。
それはかけがいのない時間を俺にくれた。
そして今、現実が目の前にある。

紅葉を一枚拾ってきた。
それに文字を書いて、屋上にやってきた。

「なぁ、今も運命は変わらないか?」

紅葉に想いを込めて、そっと空に向って放りなげた。

「やぁ」

勢いよく開いたドアから、走ってきた海堂が片手に紅葉を握り締めて立っていた。

「やぁじゃねぇよ。こっちは部活中なんだよ」

言葉の通りに、海堂はレギュラージャージにバンダナという出で立ち。

「それでも来てくれたんだ」
「こんなもん、よこすからだろ」

手に握った紅葉を見せる。

「ああ、それ届いたんだ」
「何、言ってんだ?」
「もう、届かないと思ってた」
「何だよ、それ」

どこか遠い目をして呟く乾に、海堂が不審そうな声を出す。

「ねぇ、薫」
「んだよ?」

いつも以上に、感情の篭らない声。
いつから、乾は自分の名前を呼ぶようになっただろうか。
運命を信じて見る気になって、二人でいるようになって、言葉にすれば長いはずの1年も、過ぎてみればとても短く感じられた。

「遠く離れても、紅葉は翔んでいくかな?」
「…何がいいたい?」

遠まわしな表現は乾の得意とするとこで、海堂の苦手とするもの。
その上、嫌な予感のする言葉に、海堂の眉間が寄る。

「今日、進路を決めてきたよ」
「…そっすか」
「薫、俺な…」

キツク、紅葉を握り締め、乾の言葉に耳を傾ける。

「イギリスに行くんだ」

いつもと変わらない声・口調で紡がれた言葉。
普通のことのように告げられた言葉は、だからこそ、海堂の心を苦しめる。

「やりたいことがある」

意志の篭った声。
言い出したら聞かない人。
止めることが出来ないことくらい、嫌というくらい知っている。

「…やりたいことって、テニスじゃ……」
「違うよ」

聞くだけ無駄なのだと、海堂は気付いていた。
この人は、本当にテニスを楽しんでいたから。
世界を夢見たりはしなかったから。
ただ、テニスを、強さだけを見ていた俺とは違う。

「知ってる。アンタが何を見てたかくらい」

ずっと先を見ていたことくらい。

「薫、好きだよ」

真っ直ぐに自分を見つめる瞳。
真摯な瞳は、けれど、どこか戸惑いに揺れていた。

「待ってて欲しい…、けど、それは俺の我侭だから」
「先輩」
「1年たって、それでもコレが俺たちを導いてくれるならさ」
「……」
「そしたら、待っててくれないかな」

苦笑混じりに伝えた言葉。
悩みに悩みきって、伝えた言葉。
答えはわからない。
データでは出ない答えだから。

「薫…?」
「ふざけんな!!」

キッと乾を睨みつけて、怒鳴りつける海堂。
よく見れば、目にはうっすらと涙が滲んでいる。

「何で、そんなもんに俺の気持ちを決められなきゃならねぇんだ」
「薫…」
「アンタは、コレが俺のところにきたから、俺と付き合ってたのかよ」
「違う。俺はお前を好きだと思ったから…」
「俺だってそうだよ。アンタが好きだから」

ポロポロと零れる涙を気にせずに、海堂は乾に訴え続ける。

「運命に左右されてどうすんだよ」
「そうだね」
「俺たちが、運命を決めて行くんだろ」
「それ、いいね」

そっと乾が海堂に触れる。
海堂の体が、乾の腕の中に倒れこんでくる。

「じゃあ、待っててくれる?」
「嫌」
「えーっ」
「俺が待ってるって柄かよ」
「柄とか関係ないんじゃ…」
「待つんは、俺じゃなくて、アンタのほうだ」
「え?」

スッと乾から離れて、海堂がドアに向う。

「1年、向こうで大人しく待ってろよ」
「薫、それって…」
「俺がそっちに行って、もしアンタが浮気とかしてたら、殺すぞ」

ビシッと言い切って、海堂がドアの向こうに消える。
バタンと閉じられたドア。
それを呆然と乾が見つめる。

「…参ったな」

てすりに凭れかかり、空を見上げる。

「信じるのは、運命じゃなくて、自分たちの気持ちってことか」

雲のない青空。
それに見合う、一点の曇りのない心。

「ああ、だから俺はあいつが好きなんだな」

ポケットに隠した、もう一枚の紅葉。

「俺の気持ちが変わらない限り、何年たってもコレはお前の元に翔んでいくんだな」

視線を空からグランドに向け、コートへと走っていく影を見つめる。

「好きだよ、薫。きっと、ずっと…」

手のひらから零れた紅葉が、空を舞う。
ひらり、ひらりと運命の人の元へ
愛する、君の元へ

Fin