好み



些細な日常にも
物語は詰まっている
これはそんな些細な日常に潜む
小さな物語


両親が共働きの上に、あまり家に帰ってこれないような職業のせいで、自然と料理をするようになり、今では料理はかなりの腕前の乾。
全く逆の生活環境だが、家事が好きで、手作りの手料理を作る母の手伝いをしてるうちに、料理を覚えた海堂。
そんな二人が乾の家にいるときは、自然と二人でご飯作るようになる。

「薫、おむすびの具は何がいい?」

昼食の準備のために、買い物に来ている二人。
因みに、乾がおむすび担当で、海堂がサンドイッチ担当。
食べるのは、自分が作ったものでなく、相手が作ったものなので、やはり田寝てもらう以上は相手の好きなものと考える。
デパートをテクテクと歩く二人。
鮮魚売り場近くで乾が海堂に声をかけた。

「たらこ」

それか、明太子。
はっきり言い切る海堂。

「たらこねぇ、焼く?」
「生」

ふむといくつか揃えられているたらこを見つめて、聞く乾にまた言い切る海堂。

「生ね」

海堂の好みを聞いて、どれを選ぼうかと考える乾の耳に、海堂の小さな声が聞こえた。

「焼きたらこは邪道だ」
「…邪道ってことはないでしょ?」

聞こえた言葉に乾は苦笑を見せる。

「邪道っすよ」

あんな、パサパサしたもん食って何が美味いんだ。
ブツブツと文句を並べ立てる海堂に、乾がおかしそうに噴出す。

「先輩!!」
「悪い…」

いつもより強めの声で呼ばれ、咄嗟に笑いを引っ込める乾。

「いやな、お前があんまりはっきり言うもんだから」

これは、よっぽど嫌なんだな〜って思ってさ。

「いいデータが取れたよ」
「そんなもん、取らなくていいっす」

乾の言葉に、不機嫌そうに言う海堂に、乾は尚も面白そうに笑った。


材料を買って乾の家についた二人。
早速、材料を出して作り始める。

「焼いたのもいけると思うんだけどな…」
「絶対に焼くな!!」

おむすびを握りながら、呟く乾に海堂が睨む。
その海堂はというと、パンをオーブンにいれ、鍋に湯を張っているところだった。

「何してんの?」

その様子を見て乾が口を開く。

「何って、ゆで卵作ろうと思って」
「そんなもん作ってどうすんの?」

卵を一つ持って、鍋にいれようとする海堂に尚も問いかける。

「何って、つぶしてマヨネーズで和えて、パンに挟むんっすけど?」

普通の卵サンドってこうだよな?
乾の言葉に、思わず通常パン屋で売ってる卵サンドを思い出す海堂。

「作らなくていいよ、ゆで卵は」

わずかに不機嫌っぽい乾の声。

「卵は薄く焼いて、挟んで」
「何で?」
「そっちのが好きだから」

どこか拗ねた感じの言い方に、海堂は不思議そうに乾を見る。

「ゆで卵好きでしたよね?」

乾がゆで卵に、止めろといいたくなるくらいに塩をふりかけて食べる姿を何度か見たことのある海堂。
卵料理の中じゃ、ゆで卵が一番好きかな?
と、言ってたのも本人だった。

「ゆで卵は好きだけど、卵サンドはダメ」

海堂の言葉にきっぱり言い切る乾。

「何で?同じゆで卵っすよ?」
「違うでしょ。ゆで卵は塩かけてたべるの。つぶしてマヨネーズに和えてパンに挟むなんて邪道」

力説する乾に、海堂が唖然とする。

「邪道って…」

呆れたような声を出す海堂に、乾はどことなく不貞腐れたような感じで、

「ともかく、俺はその卵サンドなら食べないからな!!」

ビシッと言い切って、海堂に思いっきり笑われた。

「何で、そこで笑うかな?」

しゃがみこんで笑う海堂に、憮然とした声で乾が問う。

「だって…あんた…そん…なっ…でかい図体で…」

ガキ!!
と、笑いながら言われて、余計に機嫌の悪そうな乾。

「この場合、図体は関係ないでしょ?」
「んなこと言ったってさ…」

笑うのを止める気のない海堂に

「…たらこ、焼くよ」

ムッとした声のまま乾が言う。

「わっ、まっ…待って」

網を出してきて、コンロの上に置き、そこにたらこを置こうとする乾の手を、海堂が急いで掴む。

「薫だって、人のこと言えないくせにさ」

ブツブツと呟く乾に、海堂は
これは、かなり拗ねてるな
と、思う。

「そうっすね、お互い様ですから、止めてください」
「もう、笑わないか?」
「……」
「笑うんだ?」

何も言わない海堂に、乾の表情が剣呑なものになっていく。

「だってさ、不貞腐れてるあんたって、すっげぇ可愛いんっすよ」

あんたが、いっつも俺で遊んでるのと同じ意味っすよ。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、海堂はスッと掠めるだけのキスをした。

そして、そこに呆然とした乾が残された。

Fin