合宿でGo!!



夏真っ盛りな8月。
学生たちは夏休みに入っているが、クラブに精を出してるものは夏休みといえども学校へと通っていた。
さて、青学男子テニス部も勿論、夏休みも練習はあった。
そして、本日より合宿に出かけることになる。
集合場所は校門前。
集合時間になる前から、バスは既に待機しているので、来た順に出席を取り次第、中に入っていくというシステムになっている。
そのため、出席を取る、部長と副部長が必然的に一番最初に来る。
二人が来て、10分程たった頃

「おはよう、海堂」
「…っす」
「早いな」

真面目な二年レギュラー、海堂がやってきた。

「海堂、○と…、もういいよ海堂。好きなとこに座って待ってて」

大石が部員の名前の書いた一覧表の海堂の名前の横に印をつける。

「…でも…」

先輩二人を、この暑い中に立たせて自分だけ、涼しいバスの中に入ることも出来ない海堂は言いよどむ。

「俺らのことは気にしなくていいよ、俺らはこれが仕事だから」

海堂の心遣いに気づいた大石が声をかける。

「そうだぞ、海堂。それに、お前が望まなくても連れ込まれる」

一人別の場所を見つめていた手塚が呟いた台詞に、大石と海堂はキョトンとした顔を見合わせる。

「やあ。やっぱり、海堂は早いな」

手塚の視線の先から、凄い勢いで走ってきた人物が、海堂の目の前で止まる。

「えっ?」
「乾…?」

そして、驚く二人を気にすることなく、目の前の海堂の肩を掴み、

「じゃ、俺らは中に入ってるから。暑いと思うけど頑張れよ」

差し入れと、ジュースを二本放り投げて、海堂を連れてバスの中に消えていった。

「…何だったんだ?」
「大石、乾は出席だ」
「…あっ、ああ…乾、○と…」

どこか腑に落ちないものを感じながら、大石は手塚に言われるままに印をつけた。
その後、しばらくして続々と部員たちが集まってくる。
チェックを入れて貰えた順番にバスの中に乗り込む部員たち

「??」

乗り込んだ部員たちが、第一声に

「ギャッ」
「うわっ」
「悪い…」

などと不可思議な声をあげるのを、不思議に思い続けながらも仕事を続ける真面目な副部長がいた。
少しして、レギュラー陣も集まり始める。

「おはよう」
「今日も暑いにゃ〜」

元気にやってきた不二・菊丸コンビに

「おはよう」
「夏なんだから、暑いのは当たり前だ」

と、正副部長の二人も挨拶を返す。

「レギュラー陣はまだこれだけ?」
「いや、乾と海堂が来てるよ」

大抵、レギュラー陣は近くの席に座るせいか、全員揃うまで外にいるために不二はそう聞いたのだ。

「ふ〜ん、珍しいね」
「眠かったんだろ」

菊丸の言葉に、手塚が答えになってないような答えを返す。

「「えっ?」」

それに、大石と菊丸は不思議そうに返すが

「なるほどね」

不二は手塚の言葉を理解できたらしく

「英二、僕らも中入ってよう、きっと面白いものが、見れると思うよ」

楽しそうに菊丸を連れてバスに乗り込んでいった。

「おおっ…にゃるほど…」
「やっぱり、僕もタカさんに…」
「俺も、大石早くね〜」

中に入った二人の反応に、大石は首を捻るばかり。

「おはよう、大石・手塚」
「おはよう、タカさん」
「ご苦労だな」
「ごめんね、遅れて」

合宿当日でも、朝の手伝いは欠かさない河村はその都合でどうしても集合時間より少し来るのが遅れてしまう。
そのことを知っている二人は、謝る河村に気にするなと返す。
そして、他の面々が既にバスに乗り込んでることを聞いた河村もバスに乗り込む。

「あっ、ゴメン…」
「タカさん、僕もしてあげるよ」
「不二!!」

やはり、どこか変わった声をあげる河村だった。

「一体、バスの中はどうなってるんだ?」
「気にする程のものではない」

どうやら声の原因を知ってるらしい手塚に問いかけてみるが、返事はそっけない。
これ以上、詮索してもわからないので、大石は手元の一覧表を見る。

「後は桃と越前だけだな」

また、越前が寝坊したのかな?

「あいつら、向こうについたら早速、走らせるか…」

集合時間を過ぎてもこない後輩二人に、既に恒例の罰を呟き始める手塚。

「まあ、まあ手塚…」

気のいい大石は、早く来てくれと祈っていた。

「遅くなりました」

そんな大石の願いが通じたのか、桃城が後ろに越前をのせて、凄い勢いで自転車を漕いできた。

「遅いじゃないか」
「スンマセン、越前の奴が寝坊すっから…」
「スンマセンシタ」

ぼやきながら自転車置き場に向かう桃城をよそに、越前は謝ってすぐにサッサとバスに乗り込んだ。

「へぇ〜」

やはり、越前もバスの中の何かに感心したような声をあげた。

「俺たちも乗るぞ」

越前に続き、全員揃ったのを確認した手塚も乗り込む。
大石は流石に桃城を待ってやらないとと思い、外に残る。

「大石副部長、待っててくれたんすか?」
「いいから、早くのろう」

中の様子が気になる大石が、桃城を急かす。
わけがわからない桃城も、とりあえず、暑いので早く中に入りたいのは確かだから、サカサカと乗り込む。

「…!!」
「なっ…」

今から合宿が始まるというのに、どこか疲れきった雰囲気の部員たち。
逆にレギュラーたちは何時もと変わらずに…河村だけが、困り果てていた。

「「何してるんだ!!」」

最後に乗り込んだ二人が、思わず叫ぶ。
それに、言われた当人のうちの一人、海堂は人差し指を口元に運ぶ。

「静かにしてもらえませんか?」

起したら可哀そうでしょ。
合宿前だって言うのに、また徹夜したんですから、この人。
桃城と大石の視線の先、一番後ろの席。
右端に座ってるのが海堂で、左端に手塚。
その真ん中に…見えるのは、乾の胴体…
そう、既に一般部員たちが疲れていて、桃城と大石が唖然としている原因、それは人目も憚らずに海堂の膝を枕にして眠る乾と、そんな乾を気持ちよく寝かせてあげようと、愛しそうに乾の髪に触れる海堂だった。
そして、それを見た不二が、その二人の前の席で、無理やり河村に膝枕をしてあげているのも、部員たちをさらに疲れさせる結果になっていた。

「大石、俺らも〜」

不二たちの横の席に座る菊丸が嬉しそうに大石を呼ぶ。

「いや、俺は…」

俺も、これをさせられるのか?それともさせるのか?
どちらにしろ嬉しくない考えに、大石は頭を抱えたくなった。
これだけ瞳を輝かして見つめてくる菊丸に、大石が勝つことは出来ないと自分でわかっているからだった。

(朝から見せつけんじゃねーっての)

三組のバカップルに対して、越前・手塚以外の部員全員がそう叫んでいた。
特に桃城、
俺なんか、全然越前に相手にされてないってのに…
この状況を羨ましく思いながらも、全然興味なさそうな越前を見て、絶対に無理だと悟り、滝のような涙を流していた。
こうして、青学男子テニス部の合宿は始まりをつげた。


今年の合宿場所は乾の提案により、海の近くになった。
彼曰く

「砂浜でのトレーニングは足腰の強化にいいよ」

ということである。
乾を信頼している手塚はその言葉に、頷いた。
そういった訳で、今年の合宿は海に決まった。
日差しが照りつける中、海岸を延々と走らされるテニス部員たち。
はっきり言って、これを拷問以外の何と呼ぶのだろう?
すぐ横には、海があるってのに、足をつけることさえも許されず、この日に照り付けられて熱くなってる砂浜を走るだけだなんて。

(泳ぎたい)

部員たちの心の叫びは、口にされることはない。
そんなこと言おうものなら、間違いなく、走らせるの大好き部長によって、一日、走らされそうだからだ。
海岸での走り込みが終わると、合宿に使わせてもらってる旅館の近くのテニスコートまでまた走って戻される。
しかも、先ほどのとは違い、何分以内に戻ってこないと、ペナル茶を飲まされるという罰ゲームつき。
疲れ果てた体に鞭ふって、全員、全力疾走でコートに戻る。
まだ、ランニングしかしていないというのに、部員たちはもうバテバテであった。
が、まだ合宿は始まったばかり、間にお昼休憩を取っただけで、初日ということで少し早めとはいえ、午後3時まできっちりと練習は続けられた。
練習後、旅館に戻り部屋割りを決める。
基本的に、一般部員とレギュラーに別れ、それぞれ好きなように4〜5人のグループを作ることになっている。
一般部員たちは、それぞれ中の良い友人たちと部屋の鍵を貰って部屋に向かう。
そうして、最後に残ったのはレギュラー+1で、

「さて、どうする」

お隣同士の鍵を二つ持って、大石が尋ねる。

「とりあえず、桃と海堂は別の部屋だね」

顔を合わせばすぐに喧嘩を始める二人を同じ部屋にすればその部屋の連中が疲れる。
それを見越しての不二の言葉だ。
乾のノートを一枚ちぎって、そこに部屋割りを乾が記していく。
部屋自体はそう大差ないので、適当に桃城と海堂の名前を書く。
そのまま、何も言わずに海堂のいるほうの部屋に、自分と手塚の名前も記していく。

「俺、大石と一緒がいい」
「僕もタカさんと同じね」

さっさと自分たちの名前を記入した乾に、不二と菊丸も希望を述べる。

「ね、英二。僕、英二とも同じ部屋がいいな」
「俺も、俺も、不二と同じ部屋がいい」
「ということで、よろしく乾」
「そうなると…」

とっとと、決めていく二人の意見に耳を傾け、紙面を向けふむと一つ頷く。

「越前は、俺らと同じ部屋になるけどいいかな?」

既に三人の名前が挙げられてる部屋と、桃城一人の部屋。
そこに、不二と菊丸の希望を取り入れると…
四人を同じ部屋にするとなると、桃城のいる部屋に入れることになる。
一応、桃城と越前は付き合ってるらしいので、越前にお伺いをたてる乾。
こういう場合、桃城よりも越前の希望のほうが優先される。

「よくねぇよ、なぁ、越前」

越前と違う部屋になりそうな現状に、桃城が抗議する。が、聞かれたとうの越前といえば

「別にいいっすよ」

と、あっさりとこの部屋割りを承諾した。

「そう?じゃあこれで決まりね」

よかった、よかったと荷物を手に立ち上がるレギュラーたち。

「よくねぇって!!」

虚しい桃城の叫びが響くだけあった。


部屋に入った、乾・手塚・海堂。越前の四人。
最年少の越前は

「越前、そこら辺に荷物を置くんじゃねぇ」

綺麗好きな海堂に叱られ、

「きっちりと、することはしてから休むんだな」

と、手塚に説教され、

「まあまあ、越前も荷物は邪魔にならないとこに置くんだぞ」

と、乾に甘やかされていた。

「それより、早く風呂行きましょうよ?」

当たり前のように三人の言葉を聞き流し、乾が端に置きなおしてくれた自分の鞄から着替えを取り出し、風呂に行く用意をはじめる。

「そうだな、汗だくだしな」
「風呂か、いいですね」
「行くか」

お風呂大好きな彼らにしてみれば、この言葉に反対することなどなく、全員、自分の鞄から荷物を取り出していく。

「隣も誘うか?」

用意も出来、部屋を出ようとしたところで、乾が口を開く。
それに、

「あいつらが来ると、煩くてかなわん」

と、手塚。

「桃先輩が来たら、ゆっくり出来ないからいいっす」

越前も嫌そうな顔。

「菊丸先輩とバカが来たら、迷惑っす」

風呂場とプールを同一化してそうな菊丸、桃城コンビとは一緒に風呂に入る気など、この三人にはなく

「いいから、さっさと行きましょう」

と、乾は三人に連れていかれた。
大所帯のテニス部では、合宿の際は貸切にしてあるので、女湯・男湯ともに使えるようになっている。
そして、優先権はレギュラーにあるため、女湯をレギュラーが、男湯が他の部員たちと別れている。
なので、隣の五人を誘わなければ、この風呂にはこの四人しかおらず。
ゆっくりとお湯に浸かりたかった三人にとっては、至福の時間となった。

「隣、誘わなくて正解だったみたいだな」

各々、好きな場所に入ってほぉっと息を吐く三人に、乾が苦笑をみせる。
こういうところで、ウマが合うんだろうな。
時折、三人でどこの温泉がいいだとか、お前ら何歳だと言いたくなるような会話をたまにしているのを思い出しながら、乾も今のうちだけの恩恵にあずかる。
どうせ、もうしばらくしたら、騒がしくなるだろうしな。
残りのレギュラーたちが来るまでの至福を味わうことにした乾だったが、

「乾先輩、頭洗ってくれますよね?」

横にやってきた越前に手を掴まれ、湯船から出されそうになり断念した。

「仕方ないな…」

越前に手を引かれ、越前の髪の毛を洗いながら、後ろで湯に浸かりながら順番を待っている海堂・手塚を盗み見て溜息をつく。

「全く、手のかかる奴らだな」

言葉の割りに、楽しそうな乾だった。
三人の髪を洗って、自分の髪も洗う。
体もさっさと洗って、そろそろ出ようと脱衣所に戻り、服を着替え終えた頃、隣の部屋の五人のうち、桃城を除いた四人が入ってきた。

「もう入ったの?」
「まあね」
「誘ってくれればよかったのに」
「煩いのはゴメンだ」
「え〜、何だよソレ」
「まあまあ」
「気持ちも分からなくはないけどね」
「そういや、桃は?」
「ああ、桃なら荒井たちの部屋に遊びに行ったよ」
「おチビちゃんと一緒の部屋じゃなくて、拗ねてたにゃ」
「そっすか」

(((((((越前、冷た過ぎ)))))))

思わず、桃城に同情してしまうレギュラー陣だった。

「じゃ、俺たちは先に戻ってるから」

手を振って、乾達が出て行き、不二たちも風呂に入るために服を脱ぎ始めた。
部屋に戻る前に、乾の奢りで全員冷たい飲み物を買ってもらう。
部屋に戻り、また荷物を鞄に詰め込み、タオルを干す。
やることをやったら、それぞれ自分のしたいことを始める。
だが…

「お前ら…」

鞄から現在読みかけの洋書を取り出し、乾の背中に凭れて読み始める手塚。
指定席とばかりに、乾の足の間に座って、ジュースを飲む海堂。

「眠い…」

飲み終わったジュースの缶をゴミ箱にほって、乾の膝を枕に昼寝を始める越前。
全く、身動きが取れなくなった乾が呆れたような声を出すのは、仕方がないことだった。

「ダメっすか?」

乾の声に、海堂が振り向く。

「いいけどね」

海堂の頭を撫でて、腰に腕を回す。

「海堂も寝ていいよ。時間になったら起すから」

目がトロンとしてきた海堂を見て、乾が声をかける。

「でも、先輩だって」

昨日、寝てないんでしょう?
と、問う。

「俺は、バスの中でたっぷり寝かせてもらったから、大丈夫だと思うよ」

起さないようにという海堂の気遣いのおかげで、合宿所につくまでぐっすりと寝れた乾が答える、

「じゃあ、お言葉に甘えて」

下がってくる瞼に逆らうのを止めた海堂が、乾の胸に頭をつけて、眠りについた。
外の暑さと違い、空調の聞いた部屋は心地よい気温で、窓から差し込む日差しは時間の都合もあり、それほど強くもなくなり、とても寝るのにふさわしい環境の中、大丈夫だと言っていた乾も、本を読んでいた手塚も、意識は下降を始める。
前に海堂、後ろに手塚を張り付かせて乾は、どちらに倒れることも出来なくて、横にずれて倒れる。
海堂を抱いたまま倒れたので、海堂の体も自然と乾と同じ方向に向く。
乾の胸の開いたスペースに乾の背中で眠っていた手塚の頭が落ちる。
倒れた衝撃を誰も感じることのないほどの眠りの深さのおかげで、そのまま四人はその態勢で隣のメンバーが起こしにくるまで眠っていた。
やはり、レギュラーといえども、初日から飛ばされた練習に疲れているらしい。


「あ
―――――っ!!」
食事の時間になり、隣の部屋の五人が誘いに彼らの部屋に入ってきた。
中の様子を見た桃城が、大きな声で叫ぶ。

「うるさいにゃ」

傍にいた菊丸が耳を塞いで文句を言う。

「桃先輩、煩い」
「うっせぇんだよ」
「うおっ」

その声で目が覚めた越前・海堂の二人が近くにある座布団を桃城に向かった投げる。
それは二つとも見事に桃城の顔にぶつかり、桃城は間抜けな声を出して撃沈。

「何だ?」

不機嫌そうに起き上がる手塚。

「もう、夕食の時間だよ」

怯むことなく、不二が時間を告げる。

「寝てたみたいだな…」

眼鏡をかけたまま寝ていたせいで、目が痛いのか眼鏡を取って、目をマッサージする乾。

「合宿前に徹夜なんかするからっすよ」

そんな乾の言葉に、起き上がった乾に凭れたまま海堂が呟く。

「悪かったって」

凭れかかってくる海堂の髪に口吻ながら、乾が苦笑交じりに謝る。

「見せ付けないでくださいよ」

腹は減ってるわ、越前は冷たいわ、まわりは見せ付けてくれてるわで初日からいいことない桃城が呟く。

「二人の世界を作ってるとこ悪いんだけどさ、もう時間ないんだよね」
「俺、腹減ったにゃ〜」
「そうか、悪かったな」

不二と菊丸の言葉を気にするでもなく、サラリと謝る。
ようやく動き出した、乾たちとともに、レギュラーたちも広間に向かった。
夕食時、レギュラー+1の9人と、顧問の竜崎が同じ席。
ここなら顧問もいるしと、そこまでイチャつかないだろうと思う部員たち。
だが、肝の据わったレギュラーたちにこの顧問。
そんなこと気にするような面々ではなかった。

「大石〜、これ美味しいよ」
「そうか、じゃあ俺のも食べていいよ」

出された海の幸を堪能してる菊丸に、大石がはいと自分の分も差し出す。

「不二、相変わらずわさび好きだね」
「うん。タカさんもいる?」
「俺は遠慮しておくよ」

山盛りのわさびをご飯につけて食す不二と、横でそれを見ながら困り果てる河村。
そんな量のわさびを乗っけてご飯を食べてるのって、見てるほうはかなり辛い。
それでも、何も言わずに不二の相手をする河村は優しかった。

「海堂、それ気に入ったみたいだね」

黙々と箸を運ぶ海堂に、乾が声をかける。

「うす」
「じゃあ、俺のもあげよう」

チマチマと気に入ったものを堪能する海堂に、乾がはいと食べさせた。

(誰がいようが、お構いなしか)

そんなレギュラーの様子を見ながら、一般部員たちは早く解放されるために凄い勢いで、夕食を食べたらしい。


そんなことが連日続いて、ようやく最終日。
今日、一日を乗り切ればこの悪夢から解放されると喜ぶ部員たちに、さらに喜ぶ朗報。
連日の猛練習を頑張ってご褒美に、本日の昼の練習はなく海で遊ぶ許可が出た。
喜びに海へと駆け出す部員たち。
レギュラーたちも同じように、海へ向かう。

「今日も日差しは強いからな、日焼けしたら大変だぞ」

日差しの強さやら、気温やら、湿度などを測りだしてデータを取り始める乾。

「泳がないんですか?」

横で海堂が訊ねる。

「泳ぐ前に、日焼け止めは塗ってたほうがいいよ」
「はぁ…」

どこからか取り出した日焼け止めを手に、ニヤッと笑う乾。

「特に海堂みたいに肌の白い奴は、日にやけたら後が大変だろう?」

ニヤニヤと笑うのを止めない乾に、嫌な予感がする海堂。
逃げたほうが無難かなと考え始めたとき、

「だからさ、俺が塗ってあげよう」

やっぱり、逃げればよかった。
楽しそうに日焼け止めを持って、近づいてくる乾を海堂は寸前で制する。

「いいっす。自分で塗れます」

真っ赤な顔で丁重にお断りする海堂。
けれど、そんなことで乾が怯むはずもなく、

「何で?俺に塗って貰うの嫌?」

と、聞いてくる。

「嫌っていうか…その…」

言いよどむ海堂。
何て言えばいいんだろうか…

「えと…、先輩に触られるのは…」

嫌じゃないけど、嫌。
恥ずかしそうに俯きながら、何とか言葉を探して話す海堂に、乾が

「俺に触れられると、気持ちよくなっちゃう?」

一応、言葉を選んで耳元で囁く。

「……っす」

その言葉に海堂は、恥ずかしそうに肯定した。
乾の大きな手に触れられるのは好きだけど、素肌に触れられたりしたら我慢が利かなくなる。
いつも、あの手に触れられて……
あの声に囁かれて……
迷うことなく自分を追いつめてくる彼の手が、日焼け止めを塗るためだけだとしても自分に触れてきたりしたら……
今だって、こうやって思い出しただけでおかしくなりそうなのに。

「何、考えてる?」

あの行為を思い出してしまった海堂の思考を読んだかのように、乾がいつもより甘い声で囁く。
揶揄を含んだその声に、ゾクリと海堂の背が粟立つ。

「ねぇ、薫」

海堂の状態を理解していながら、わざと乾は海堂の名前を呼ぶ。
海堂が名前で呼ばれることに弱いと知っていてのこと。

「乾…先輩…」

ギュッと何かを我慢するように羽織ったパーカーを握り締めた海堂が吐息混じりの声で乾を呼ぶ。

「海入るの止めようか?」

二人っきりになれるとこ、行く?

「はい」

これからされるであろうことを理解したうえで、海堂が頷く。
そして二人は、部員たちの目を盗んでひっそりと消えていった。


しばらくして、

「乾と海堂はどうした?」

ようやく二人の不在に気づいた手塚が、海から上がってきた大石に訊ねる。
そろそろ時間なので、ゾロゾロと海を堪能した部員たちが岸に上がってくる。

「そう言えば、いないな?」

大石もその言葉に、周りを見渡す。

「誰か知らないか?」

宿に戻る用意を始める部員たちに声をかけるが、誰も知らないらしく首を横に振る。

「先に、戻ってるんじゃない?」
「乾がいるから、大丈夫だって」

気にすることなく不二と菊丸が口を開く。
心の中では二人とも

((しまった、そういう手があったか))

と、皆と同じように海ではしゃいでしまったことを悔やんでいた。

「そうだな、乾もいるから大丈夫だよな」

二人の言葉に、心配性な大石も納得する。

「じゃあ、戻ろうか」

宿に帰っても二人がいないようなら、それから考えたらいいかと全員、宿へと向かう。

「あっ、終わったんだ」

宿についたら、丁度、こちらに向かおうとしていた乾と海堂に出会う。

「ズルイにゃ、乾〜」
「そうだよ、僕たちにも声かけてくれたらいいのに」
((そうしたら、同じように二人でどっか行ったのに))
「黙っていなくなるなよ」

不平を漏らす不二と菊丸、心配したことを継げる大石に

「悪い、ちょっとな」

悪びれることなく、乾が後ろの海堂を見た。

「すんませんでした」

乾の後ろで背中に張り付いてる海堂が、ぼそぼそと小さな声で謝罪する。
どこかスッキリした感じの乾と、どこか憂いを帯びたような海堂。
仲良く寄り添っている二人のどことなく甘い雰囲気は、如実に、何かありましたと物語っていて、
(あんたら、二人でバックレて何やってんだよ!!)
それに何かを察した部員たちが、疲れきったように突っ込んでいた。


こうして、色々な意味で疲れ果てた、青学テニス部の合宿は幕を閉じた。

Fin