少し顔を上げて見ないと見ることが出来ない身長差。
部内1の長身。
見下ろすとまではいかなくても、せめて同じ目線になってみたい。
そうしたら、あの人と同じ目線で物事を捉えることが出来るかもしれないから。
あの人のことがもっとわかるかもしれないから。
部活に向う途中の校舎。
階段を降りようとしたところで、前に乾先輩がいた。
「先輩」
「やぁ、海堂」
上から声をかけたら、先輩がこっちを振り返る。
「海堂も今から部活?」
「っす」
「じゃあ、一緒に行こうか」
いつもと違う関係。
見下ろす俺と見上げる先輩。
先輩は階段の途中で、俺が降りてくるのを待っている。
俺はいつもなら早くテニスがしたくて、駆け下りている階段を、1歩・1歩踏みしめるようにゆったりと歩く。
先輩との距離、残り1段。
「海堂?」
俺と彼との身長差
11cmの距離がなくなる1段。
「どうしたの?」
この人と同じ目線。
「…何でもねぇ」
見上げる必要も、見下ろす必要もない間柄。
同等の位置。
「目標、後11cm」
「海堂?」
「先輩はもう伸びんなよ」
「はぁ?」
訳が分からないというような表情の先輩に、少しだけ可笑しくて笑ってみた。
「ほら、先輩。部活遅刻するっすよ」
グイと先輩の制服を掴んで、先輩のいた段ごと飛び越えて走っていく。
「お、おい、海堂」
グイグイ引っ張られて慌てる乾先輩も、それでも足を踏み外したりすることなく俺の後を俺と同じスピードで着いてくる。
「いつまでも、余裕でいられると思うなよ!」
「余裕でいたことなんてないよ」
二人で階段を駆け下りながら、言い合う。
いつもこの人には言い負かされてるから、たまには言い負かしたい。
そんなくだらない勝負でさえも、あなたとなら楽しくて仕方ないんだ。
あなたより、上でもなく下でもなく、同じ位置に…同じ場所に立っていたい。
そんな恥ずかしいこと、口に出していえるわけはないけど
今の俺のささやかな願いごと。
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