とある曜日のとある時限。
ほとんど寝てすごす乾が確実に目覚めている授業がある。
とは言え、視線はずっと窓の向こう。
窓側、最後尾にいる乾は、そこからずっとグラウンドを眺めている。
勿論、授業は進行している。
ただ、教師陣は乾の成績を知ってるだけに何も言えないのだ。
言ったが最後。
逆に間違いを指摘されたりと、自分が恥をかくことになる。
教師だって、平穏に授業は進めたいのだ。
そんな理由で、誰に咎められることもなく窓の外を眺める乾。
その乾の視線の先にいるのは……
「うっせぇーんだよ、バカ城」
「何だと、マムシー」
「相変わらずだなあいつらは」
勿論、可愛い恋人の海堂。
海堂は体育は隣のクラスと合同のため、桃城と同じ授業になる。
「毎回、毎回、ご苦労なことだな」
そして、何故か授業の度に喧嘩になる二人。
今も、乾の見てる目の前で二人は掴みあい、取っ組み合いになりそうな、一発触発状態を醸し出していた。
「荒井たちじゃ、まだ無理か…」
喧嘩してる二人の周りを、クラスメイトが取り囲む。
海堂と桃城、この二人の喧嘩の仲裁に入る勇気は、クラスメイトたちにはなくて、自然と先生に視線を向けるが、過去に仲裁に入って逆に自分が殴られた過去を持つ体育担当はかかわりたくないのか、同じテニス部員の荒井たちに止めろと指示していた。
「越前は、止めれるだろうけど、止める気はないだろうしな…」
止めようと一歩踏み出すも、それ以上は進むことの出来ない三人に乾は軽く溜息をつく。
「来年からどうするんだろうなー」
他人事のように呟く乾。
実際、他人事なのだけれど、仮にも当事者の片方は恋人なのだから、もう少し、後輩たちのために何かしてやってもよさそうなものだ。
因みに、乾のクラスも授業中である。
乾は集中すると、周りが見えない性質だ。
しかも、データーを取る時など、ブツブツと声に出して呟いている。
勿論、今もだ。
カッコの台詞は全て、本当に乾が口に出しているものだった。
だからといって、教室中に響いてるわけではないが、それでも前や隣、斜め前のクラスメイトたちの耳には入っている。
はっきり言って、彼らは授業どころではない。
乾の言葉が気になって仕方ないのだ。
だからとは言え、乾に文句も言うことは出来ない。
そのお詫びに、乾からこの授業に関してはヤマを教えてもらっているからだ。
だからもう、乾の近くの席の人間はこの時間の授業を放棄していた。
「そろそろ、限界かなー」
のんびりした声で、とんでもない台詞を吐く乾。
グラウンドではヒートアップした二人の喧嘩が益々グレードアップしてくる。
少しずつグラウンドの騒ぎが校舎の中にも聞こえ始め、窓際に座ってる生徒たちの耳に入ってきている。
「この調子じゃ、手塚が気付くのも時間の問題かな?」
三年一組の手塚の席は一番通路側。
現在、三年レギュラーで窓際なのは乾と不二の二人のみ。
今の所、二人の喧嘩に気付いているのはこの二人だけなので、平穏なものだ。
校舎の中の話しだけだが……
どんどんと大きくなる、二年レギュラー二人による騒音はそろそろ教室全土に響き渡り始めた。
「限界だな」
おもむろに立ち上がる乾。
「海堂」
「先輩」
乾が騒音の元の一人、海堂を呼ぶ。
いつもの感情の籠らない、淡々とした声でだ。
「どうしたんっすか?」
それだけで、海堂はコロッと態度を変えて、桃城との喧嘩を止めて乾のクラスの真下に向かう。
「皆、困ってるよ」
「え?」
「授業中だし、先生困らせないようにね」
「っす」
「手塚の雷も落ちそうだし、もう喧嘩は止めような」
「はい」
「じゃあ、後で」
「っす」
軽く手を振って、自分の席に座る乾。
海堂は、乾と話せてご機嫌らしく、喧嘩してた怒りも忘れて、大人しく授業に戻る。
……突っ込みどころが満載過ぎて、両クラスの生徒・先生は授業も忘れて固まっていた。
「乾のやつ、留年して海堂と同じクラスにならないもんかな?」
「……先生困らせないようにねって、お前が言うなよ」
「どうやったら、あんな簡単に喧嘩を止めれるんだ?」
などなどと、突っ込みたいことは沢山あったが、皆、乾と海堂が恐くて……そして、何より、馬に蹴られる趣味はないので、心の中だけに留めておくことにした。
海堂のクラスが体育の授業の日、それはとあるバカップルのイチャイチャぶりを全校生徒・先生が否応なく、見せ付けられる日だった。
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