海堂 薫 13歳
身体測定当日・彼には密かな野望があった。
「次…」
現在、海堂がいるのは体育館。
本日、全校生徒一斉の身体測定日。
海堂のいる体育館は身長・体重などを量るために開放されている。
その中で海堂がいるのは、身長の測定器の前。
身体測定と開始とともに海堂が真っ先に走ってきたのがここだった。
「…173cm」
「っし」
計測する教師の声が聞こえた海堂は、気付かれないように小さくガッツポーズをする。
「去年、不二先輩に聞いた乾先輩よりでけぇ!」
紙に書き記された自分の身長に、すっかり嬉しそうな海堂。
とはいえ、周りが見ても誰も海堂が嬉しそうとは思わないのだけれど……
「乾先輩、何処だ?」
「桃城、170cm」
海堂が野望達成のために、乾の姿を探そうとしたその時。
ほぼ同時期にやってきた桃城の計測結果が聞こえてきた・
「フン、チビ」
「何だと〜、そういうてめぇはどうなんだよ!!」
「俺か、俺は173だ」
「げ、俺よりでかいじゃねーか!」
「はん、あったりまえだろ。バカ」
「バカ言うんじゃねーよ」
「じゃあ、あれだなチビ」
「チビ言うな!3cmしか変わらねぇだろうが!」
「それでもてめぇが俺よりちいせぇのは変わらねぇだろうが」
フンと鼻で笑う海堂とライバルである桃城が自分より背が高いのもムカツクうえに今日に限ってやけに喋ってくることも…それもムカツクことばかり…腹が立ってきたのだろう、既に青筋立てて臨戦態勢に入ってきていた。
「桃城・海堂、何をしている」
「ったくー、二人とも二年生になったんだからさー、所構わず喧嘩しちゃダメにゃ!」
「英二、この二人に限ってそれは無理だよ」
けれど、二人が喧嘩することはなく、やってきた手塚・不二・菊丸に二人は臨戦態勢をといた。
ただし、海堂の場合はそれだけが原因ではなさそうだが……
「乾先輩!」
手塚・菊丸・不二の後ろにノート片手に立っていた乾に気付いた海堂は、周りを無視して乾の元に走りよる。
「あ、海堂。身体測定の結果どうだった?」
「173cmっす」
「へぇ、大きくなったねー」
「えー海堂、俺と変わらないじゃんかよー」
やってきた海堂に、乾は嬉々として本日計ったばかりの身体データーを取り始めようとノート開く。
それに答えた海堂の身長に菊丸が不満そうな声をあげる。
「桃はどうなの?」
「俺っすか…」
「どれどれ…170だってさ、乾」
その後、桃を見つけた乾が同じように問いかけるが、言いにくそうな桃城に不二が勝手に結果を覗き込んで変わりに返答する。
「有難う不二。桃、海堂に負けて言いたくなかったんだ」
「身長で負けたって、テニスじゃ負けませんよ」
「ほざけ」
「何をー」
「いい加減にしろ!」
「「はい」」
そして、懲りずに喧嘩を始めようとする二人に手塚の叱責が飛んで、また大人しくなった。
つくづく、学習能力のない二人である。
「でも、海堂も桃も去年から考えたら凄く伸びたよねー」
「去年は僕よりも小さかったんだよね」
「もしかして、海堂。乾より高いんじゃにゃいか?」
「みたいだね」
菊丸の言葉に、海堂の隣にいた乾がノートを見た後、海堂を見る。
「とうとう、海堂にも抜かされたか〜」
「っす。乾先輩!!」
「ん?どうかした?」
「先輩、ずっと好きでした。俺と付き合って下さい!!」
体育館の入り口付近
ただでさえ注目を浴びやすいテニス部レギュラーの群れ。
その中で、目つきの鋭さと常に機嫌の悪そうな表情から恐れられている二年の海堂が、紅一点で男子テニス部マネージャーであり、レギュラー内のアイドルと化している乾にいきなり告白したものだから、その体育館にいた生徒・教師は一斉に測定を途中放棄までして、そちらに注目した。
「とうとう言ったにゃ、海堂」
「うん。やっぱり、乾より低いの気にしてたみたいだね」
「はっ、乾先輩が海堂なんか相手にするかよ。部長ですら落とせなかった人だぜ」
「そりゃ、乾は手塚の本性知ってるからにゃー」
「手塚をよく知っていて、手塚と付き合うなんてバカがすることだよね」
「どういう意味だ。大体、俺と乾はそんな低俗な関係などではなく…」
「はいはい、いいからいいから」
「ただの幼馴染でしょう。因みに、僕も乾とは幼馴染だよ」
その告白現場のすぐ傍にいるレギュラーたちは面白そうに二人を見ながら話している。
因みに、残りの河村と大石は彼らと一緒だったら厄介な騒動に巻き込まれることを恐れて、違う場所から始めていたためにこの場にはいなかった。
そして、越前はまだ一年のために、行動待ちで教室で待機中だった。
そのため、この現場に居合わせれなかった三人のうち、大石と河村はよかったいなくてと胸を撫で下ろし、越前はそういう面白いことは俺のいる前でやって欲しいっすよねと残念がっていた。
「先輩…やっぱ、俺じゃダメ…」
「いいよ」
「え?」
「付き合うよ」
「乾先輩?」
「どうしたの海堂、変な顔して?」
「本当にいいんですか?」
「よくないほうがいい?」
「そんなわけないっす」
「私も海堂が好きだよ?」
「何でそこで疑問系なんっすか…」
「海堂って変なところで鋭いよねー」
「先輩!」
「好きだよ。結構、アプローチしてたつもりだったんだけど…」
「え?」
「気付かなかった?練習メニュー海堂だけに組んであげたりって、結構、海堂にだけ特別扱いしてたんだよ?」
「それは、俺が弟みたいだからって…」
「好きだから特別なんていえないでしょ」
乾の言葉にしどろもどろになる海堂に、乾が恥ずかしそうに頬を染めて俯く。
「先輩」
「海堂、好きだよ。だから付き合おうね?」
「はい。先輩、俺・俺…」
「海堂、ちょっ…」
乾の返事に感動してしまった海堂は、ギュウッと力一杯に乾を抱き締める。
「海堂、苦しいってば」
「あっ、スミマセン」
「たく、抱き締める時はもうちょっと優しく。ね」
「は、はい」
乾の苦情に、抱き締められること自体が嫌だという風に自己完結して、すっかり気落ちした海堂に、乾が苦笑しながらも自分から海堂にそっと抱きつく。
乾に優しく微笑まれて、先を促してもらえて、海堂は今度は優しく力を抜いて乾を抱き締める。
「先輩、好きです。大好きです」
「はいはい」
感極まったような涙声で、何度も好きと繰り返す海堂に、乾は優しく海堂の髪を梳いてあやしていた。
「二人とも、ギャラリーの存在忘れてにゃい?」
「忘れてるだろうね」
「海堂のやつ…チックショー、羨ましいじゃねーか」
「海堂、乾を泣かせたら承知せんぞ」
「で、不二」
「何、英二?」
「どっから、それ出したにょ?」
「内緒vv」
「それは誰も買わないと思うっすよ、不二先輩」
「買うよ。誰よりも、そこの当事者がね。かなりの大金でも出してくれそうだしね」
「流石、不二。抜かりがなさ過ぎにゃ」
「不二、乾の表情だけを頼む」
「手塚、通だね」
そして、二人の世界に入ってる海堂と乾をネタに、その場にいる青学レギュラー陣は大盛り上がりだった。
後日、出回りそうになったその写真を巡って、一騒動があったとかなかったとか……
貯金を泣く泣く下ろしてきた海堂を目撃したものもいたらしい……
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