体育祭のシーズンは年2回。
文化祭と時期が被るためか、春のうちにやってしまう学校と秋にする学校。
ここ青春学園は春にやることになっていた。
「ねぇ、海堂」
「っすか、乾先輩?」
前回の身体測定の時以来、念願叶って乾の彼氏という座を見事ゲットした海堂は、その彼女になった乾に声をかけられて、桃城と打ち合っていたのも無視して、乾の元へと駆け寄っていく。
「てめーマムシ!!いきなり出て行くんじゃねーぞ!!」
「うっせい!!」
ベキッ
「ハフ…ンvv」
「桃、それはここじゃないよ」
「え?」
「それはまた別の専属コーナーだから」
「あ、はい。じゃあ、てめー何すんだー…でいいんですかね?」
「よし」
「じゃあ……」
「そんなもんどうでもいいから、貴様は黙ってろ!!」
ベキッ
桃城撃沈。
海堂によってもう1発食らった桃城は、そのままコートに沈みこんだ。
「海堂、あんまり桃殴ったら、こっちでもああなっちゃうから…」
「っす。で、先輩、何か用っすか?」
「ああ、そうそう。海堂さ、今度の体育祭で学らん貸してくれないかな?」
「…学らんっすか?何に使うんっすか?」
「うん、体育祭の応援合戦でね」
「先輩、応援合戦でるんですか?」
「うん」
「え、乾。応援合戦でるの?」
何処から聞きつけたのか、3-6コンビの菊丸・不二が二人の傍に寄ってくる。
「そうなの」
「乾、学ラン着るんだね?」
「うん」
「そう」
乾に学ランを着ることを確認した不二は楽しそうにこっそりと笑う。
それに何となく嫌な予感がした海堂だったが、不二が恐くて何も言えなかった。
「で、海堂。貸してくれない?」
「それはいいっすけど…」
「そう。じゃあ、お願いねvv」
「はい」
嬉しそうにお願いお言われて、海堂はついつい意味もなく張り切ってしまった。
「さあ、家に帰って最高の機材の用意をしないとね」
「不二、後で焼き増しよろしくにゃ」
「勿論だよ、英二」
そして、いなくなった乾と海堂を横目に不二と菊丸はそれは楽しそうに体育祭のためのとある準備への話し合いを始めたのだった。
「いい天気だねー」
「絶好の学ラン日和にゃー」
「何故、学ランなんだ。乾にはもっと…」
「手塚、学ランも倒錯的でいいよ」
「む。そうか。それでもだ、それならそれで、乾、何故この俺の学ランを着ないんだー」
「手塚の何か着たら、後で洗濯もせずにそのまま着られそうだからだよね」
「それに海堂は乾の彼氏だしにゃー」
「妥当だよね」
「妥当だよにゃー」
というわけで、体育祭当日。
応援合戦の出場者たちの集合場所、目の前に女装姿の河村と海堂の学ランを着た乾を置いて、言いたいことをいう不二と菊丸と手塚。
海堂は乾が学ランも似合っていいだとか、でも女の子の格好のが゙可愛いかもとか、自分の学ラン着てるのかと思うと…とグルグルと一斉に溢れてきた感情に混乱しながらもキラキラと目を輝かせて、涙を流しながら乾を見つめていた。
「海堂、何で笑いながら泣いてるの?」
「お、俺も…よく…わかんねぇっす…」
そんな海堂の涙を乾がハンカチで拭っている。
その一種異様といおうか、目立つといおうかな空気の中に一緒にいる羽目に陥っている河村はただ一人、逃げ出したい気持ちに捕われていた。
「い。乾、時間…」
「あ、本当だ。じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「乾もタカさんも頑張って」
「乾、一番前でお前の勇姿をしかと見届けるぞ」
「海堂、手塚を適当なとこに閉じ込めてて」
「え…」
「乾、海堂が可哀相だよ」
「流石に、自分の部の部長を閉じ込めたりは出来ないっしょ」
「っす、すみません。先輩」
「いいよ、そうだよね。海堂、後輩だもんね」
「っす。変わりに、もし桃城のアホが何かしでかしそうなら殴って黙らしときます」
「手塚は、限界っぽかったら僕たちが何とかするから」
「海堂も不二もよろしく」
「っす」
「任せて」
-応援合戦本番-
「うおおおっぉおおお―――――――――」
「乾、何て綺麗なんだ。型もきっちりと決まっていて…」
「乾先輩、格好いいっす。倒錯的すぎて、俺、ヤバいことに…」
「俺の先輩を汚すような台詞を吐くんじゃねー」
『ゲシッ』
「流石は我が心のオアシス。L・O・V・E…愛してるぞ、乾ー」
「手塚、そろそろウザいから」
『サクッ』
学ランきて演舞を披露中の乾の目の前でバカ騒ぎを繰り広げていた手塚と桃城は、前述の通りに不二と海堂によって撃沈させられた。
その後は、何事もなく…ただ不二と菊丸の二人が写真とビデオに散々乾を撮り尽くして、海堂に焼き増しとダビングをお願いされただけで無事、応援合戦は終りをつげた。
「先輩、凄かったっす」
「有難う海堂。服、洗濯して返すね」
「いえ、そんな悪いっすし。俺、今日着る分なんで」
「そっか…、ごめんね、汗で汚しちゃって」
謝る乾に海堂はブンブンと首を大げさなほど横に振る。
「いっそ、汗つきのが嬉しいよね」
「ふっ、不二先輩!?」
「もう不二、手塚じゃないんだからさー」
「そ、そうっすよ…」
不二の出現により、しどろもどろになる海堂。
手塚ほどではないにしても、少しくらいはそんなヨコシマな気持ちもあったようだ。
「あ、乾ー。次、出番だよー」
「え?あ、本当」
「乾、借り物競走出るの?」
「うん、何かそういうことになっちゃって」
「先輩、頑張って下さい」
「うん」
「乾のデータなら、軽く1位になれるよ」
「そうかな?」
「そうっす、先輩なら大丈夫っす」
「有難う」
というわけで、連続で競技に参加する乾。
一体、他のメンバーはいつ出てるんだという、突っ込みはナシでよろしくお願いしたいところです。
「よーい…」
サクサクっと進んで、借り物競走も乾の列の番。
『バンッ』
空に向かって打ちつけられた銃声に、一斉に走りだす。
「乾ーがんばー」
「頑張ってね、乾」
「先輩」
などなどの青学レギュラー陣の声援を浴びながら、一番に借り物の書いてある紙の前に辿りつく。
「何書いてるのかにゃ?」
「興味あるよね、乾固まっちゃったし」
「あ、動き出した」
3-6コンビの実況通り、初め、内容を見て固まっていた乾だったが、腹を決めたのか2年生の席に向かって走りだした。
「海堂」
「先輩、どうしたんっすか?」
「ちょっと来て」
「俺?」
「そう、海堂。お願い」
「は、はい!!」
乾は真っ直ぐに海堂の元に走って、今度は海堂を捕まえて、そのまま二人でゴールへと凄い勢いで走っていった。
そのおかげか、一瞬固まった時があったものの乾は無事1位でゴールできた。
とはいえ、本番はここから。
借り物競走である以上、借り物が正しいのかどうかの判定があった。
さあ、乾の借り物の名称は…
「定番ですねー<好きな人>です」
「えーーーーーーっ!!」
「おーーーーーーっ!!」
「えええええっ!?」
進行役の生徒が乾から受け取った紙を読み上げた途端、校庭からは驚いたような不満そうな声と歓声がどよめき、横の海堂からは吃驚したような珍しく叫び声があがった。
「…何で皆して驚くかな?特に海堂。何で海堂が一番驚いてるの?」
「え、い…いや…その…」
周りの声に一人不満そうな乾。
特に海堂本人からあげられた声には不満をあらわに海堂に詰め寄るが、海堂はまだ混乱しているのかしどろもどろになっている。
「好きって言ったの信じてなかったの?」
「ち、違うっす。単に、内容に驚いただけで…」
「そっか…私も見たときは固まっちゃったっしね。よし、許してあげよう」
「っす」
乾から許しが出て、心底ホッとする海堂。
「乾はてっきり手塚とデキてるかと思ってたなー」
「何で手塚なんかと付き合わないといけないのよ!!」
「乾先輩は俺のだー!!」
だがそれも束の間、進行役の生徒の一声に乾と海堂、二人からの苦情の声が速攻で入った。
「手塚なんかって、手塚ってテニス部のエースで部長で、うちの生徒会長で、女子の憧れの的だろ?」
「表向きはでしょ。手塚の本性知ってて好きになる人がいるなら見てみたいわよ」
「でもさー、他にも不二とか菊丸だっているのに、どうしてこいつなんだ?」
「こいつとは失礼よね…」
「あ、いや…」
「いっとくけどね、海堂がうちのレギュラーの中じゃ一番まともで格好いいんだからね」
「…先輩vv」
進行役の生徒の言葉にムッとしたままの乾にひやひやしている進行役の生徒。
その乾の隣の海堂は、乾の言葉にジーンと感動している。
「大体、手塚はどっか1本ネジ飛んでるし、不二は既に人じゃないしさー」
「お、おい乾…」
「ふふっ…今の台詞、乾だからこそ許されてるんだよねー」
「不二しゃん…きょわい…」
「乾、ネジが1本飛ぶのも全て、お前は美しいからに他ならない。本当に罪な人だ…」
「手塚、今度病院に行こうな」
乾のぶっちゃけトークに慌てたのは進行役の生徒。
名前を出された不二は開眼して菊丸を恐がらせ、手塚はその言動によって大石に精神科の予約を入れられそうになっていた。
「英二は動物だしさー、大石は髪型可笑しいし、河村は二重人格でしょう」
「ひどいにゃ乾!!俺、人間だもん」
「乾が正しいよ」
「不二まで〜」
「……髪型可笑しいって…そんなに可笑しいかな?」
「ああ、変だ!!」
「変はまた違うと思うんだけど…」
「一応、どっちの時でも記憶はあるんだけどなーハハ…」
まだまだ続く乾の台詞。
菊丸は乾の言葉に拗ねるものの、不二にあっさりこ肯定されていじけ、大石は苦笑してるところに手塚の容赦ない一言でガックリと項垂れて、河村はハハハと乾いた笑いを漏らしていた。
「桃は下ネタ王だしねー」
「乾先輩ー、そりゃねぇっすよー」
「その通りじゃん」
「越前、お前までひでぇよ」
「乾先輩、俺はー?」
「越前は出逢ったばっかだし、小さいし、弟みたいに可愛いとは思うけどね」
「チェッ…まあ、いいか弟でも」
テニス部マネージャーによるレギュラー暴露大会にレギュラーはほぼ壊滅的なダメージを受けていた。
いまだ元気なのは弟のポジションを手に入れた越前と、何も言われていない海堂のみ。
「その点、海堂は真面目で努力家だし、素直で礼儀正しいし…」
「せ、先輩……俺、嬉しすぎてもう……」
「え?海堂?海堂!?」
「幸せすぎて…もう、死んでもいいっす……」
けれど、その海堂も乾の惚気によって撃沈。
今年の体育祭はテニス部レギュラーとマネージャーによって多数の死傷者(笑)が出てしまったために、続行不可能になりかけたという。
体育祭でテニス部メンバーを中心に動かしてはならないという、極秘の決まりが出来たのはこの年のことからだった。
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