幸せになるためには?  <幸せ探しに10のお題 02>



「幸せになるためにも、俺の気持ちを受け取ってくれ、貞治」
「キル」
「蓮二、KILLと斬るをかけたのはわかったから、銃刀法違反で捕まる前に刀は捨てろって」
「何で、立海レギュラーが揃って、青学にいるんだー。とっとと出てけー」
「貞治、行くぞ」
「乾先輩は、置いていけー」
「海堂、落ち着こうな。蓮二も海堂を怒らせるなよ」
「失礼な。俺は何もしとらん、勝手に一人で怒っているだけだろう」

本日、2月14日
場所は青春学園中等部、テニス部コート。
女子生徒がこぞってチョコレートを青学レギュラー陣にとコートいいたのも束の間、気づけばコート周り、コート内にいるのは青学レギュラー及び立海レギュラーのみ。
他の部員・生徒は突然の乱入者の異様な雰囲気に恐れをなして、逃げ出した後だった。
青学側は乾を囲むように、乾の周りを不二・手塚・海堂・菊丸・越前が取り囲み、対する立海はその乾にジャンピングアタックを決めようと飛び出した皇帝・真田が瞬時に乾の目の前に回りこんだ柳によって始末されていた。

「青学の皆には、お見苦しいものを見せてしまった」
「幸村、ここに来る時はちゃんと繋いでおけと言っている」
「わかってるよ、柳。真田も勝手に首輪を取らない」
「その前に、あんな真田を他校に晒してもええんかのう?」
「青学ですし、問題はありませんよ」
「そうそう、同じ苦労をしてるとこだしね」
「同じって…大石さんって…?」
「違う、違うぞ、切原君。俺じゃない」
「うちは副部長じゃなくて、部長そのものなんだよにゃ」
「手塚の同属は世の中にはまだいたなんて、僕、吃驚だよ」
「全国探せば、まだいるかもしれませんよ?」
「探すな、迷惑だ」
「何を言う、俺をあの犬扱いされてる奴と一緒にするな」
「「「「一緒だって(です)」」」」

その後、首輪持参の幸村に引き取られた真田。
その姿に同情を感じるものはなく、何処も同じ苦労をしているんだなと青学部長及び立海副部長を除くレギュラーたちが同情しあっていた。

「所で蓮二、今日はどうした?」
「ああ、バカの始末ついでに、虫の排除でもと思ってな」
「バカ…ああ、言いえてるね」
「今日はバレンタインだからな。特に虫が群がる確立100%だからな」
「虫って…?」
「例えば、お前の周りに今はりついてる虫とかだ」

キランと柳の手にある刃が光る。
開眼した柳は、さっと乾の周りを固める青学陣を見据える。
そこにいるのは胃の弱い大石や、優しい河村ではなく、度胸の座った怖いもの知らず……一部、怖いもの自身ばかり。
立海の者なら、その一睨みだけで逃げ出すであろうものであっても、怯むことなく睨み返していた。

「わざわざ他校から乾を守りに来てくれたのは感謝するけど、乾の傍に僕らがいるから大丈夫だよ」
「乾は青学の乾にゃ、立海には渡さないにゃ!!」
「他校の生徒は出ていってもらおう」
「その迷惑なでっかい帽子の害虫だけ連れて帰ってよ」
「乾先輩は俺が守るっす」
「何で、俺より遥かにチョコを貰ってる奴らに、俺が守られる必要があるんだ?」

睨みあい、開眼・威嚇と続けられる状況に一人ついていけない乾は、ある意味、至極まともな疑問をぶつけるが、ここにその疑問を答えるような余裕を持つ人物と、口を挟める勇気ある人物はおらず、その疑問の答えが返ってくることはなかった。

「取り敢えず、皆、落ち着いて。蓮二もそれ収めろって」
「貞治がいうなら、仕方ない」
「全く状況がわからないんだが?バレンタインと虫がどういう関係があるんだ?」
「それはだな…」
「あ、乾さん発見、リズムに乗るぜ」
「乾さん…なんでまわりに邪魔なのが群がってるかな、嫌になるよな…」
「やぁ、神尾君に伊武君」
「乾さん、これ俺たちからっす」
「お世話になったので、後、これなかったけど橘さんからもこれ預かってます」
「あ…有難う…」
「リズムにボヤキ、俺の先輩にさり気なくチョコ渡してんじゃねー」
「斬る」
「柳、他校生に刀は問題が出るから止めておいてくれないか」
「幸村…わかった…レーザービーム」
「ああ、それは僕の技です」
「アニメじゃゴルフ打ちじゃし、ええじゃないか」
「よくありません。それならせめて、ゴルフ打ちを持ってってください」
「断る、あんなふざけた技」
「うわ、参謀。本当に乾以外には容赦ないな」
「俺、帰っていいか?」
「俺も帰りたい」
「俺もだよ、大石」
「そっちも苦労してるんだな」
「ジャッカル君も」

一発触発の空気を何とか凌いだ乾。
訳の分からない状況をキチンと説明してもらおうと尋ね、柳が口を開いたところに、新たに不動峰の神尾と伊武の二人がやってくる。
二人は一目散に乾の元に駆け寄り、バレンタインチョコとともに橘から預かった(チョコも勿論ついてる)転入届を手渡す。
戸惑いながら受け取る乾に、恋人の海堂がキれて二人に掴みかかりそうになり、柳は一度は収めた刀を出そうとするが、幸村に止められ仕方なく、柳生の原作での必殺技…レーザービームを容赦なく不動峰の二人に浴びせた。
そんな混戦の中、それぞれの学校の良心…常識人の大石・河村・ジャッカルの三人は同じ境遇に涙して慰めあっていた。

「「乾さーん」」
「あー、城成湘南の双子ー」
「やあ、洋平君に浩平君」
「「乾さん、これ俺たちの気持ち受け取って?」」
「そ、そう…有難う…」
「双子、俺の先輩に抱きつくんじゃねー」
「柳、刀は駄目」
「ナックルサーブ」
「え、今度は俺っすかー」
「何で、柳君の繰り出す技は原作の僕たちの技だというのに、出てくるのはアニメのほうなんですか?」
「それは、あの双子が管理人に気に入られてるからじゃろ。双子好きじゃからのー」
「いっそ、仁王と柳生も双子で通したらどうだ?それなら入れ替わりの謎も簡単に解けるだろう」
「またんか、参謀。そんなんしたら、俺は柳生に手を出せんじゃろーが」
「どっちにしろ出さないで下さい。迷惑です」
「そういうこと言っても、実は嬉しいんじゃろ。照れ屋やなぁ、柳生は」
「幸村君、確か他校でなければ斬ってもいいんですよね」
「ああ、うちの学校なら、隠ぺい工作出来るからね」
「柳君、刀貸して下さい」
「お、落ち着け柳生」
「柳生、急所をつけば一発で死ぬ、気をつけておけ」
「おい、参謀。今までわざと真田の急所外してたんか?」
「当たり前だ。すぐに殺してしまってはつまらんだろ」

続けてやってきた城成湘南の双子の登場によって、まぬけな台詞を披露して真面目な柳生の怒りを買ってしまった仁王。
柳から受け取った刀を振り回す柳生から命からがら逃げる仁王を尻目に、話はどんどんと進んでいく。

「貞治、こういうことだ」
「…どうせ義理なんだから、気にする程じゃないだろ」
「義理なわけないでしょ、先輩、いい加減気づいてください」
「海堂も、幾らなんでも彼らが俺に本命なんか贈るわけないだろ」
「贈ります」
「本命なんてくれるの海堂くらいだってば」
「そ、そんなことはないぞ乾。この俺が作ったチョコを…」
「手塚、乾を食中毒で殺す気?」
「ぐはっ」
「不二、それは一応部長だ。命だけは助けてやってくれ」
「そうだ、貞治。これほどまでに熱い想いが詰まったチョコはない、受け取ってくれー」
「死ね」
「だから、勝手にどっか行ったら駄目だと言ってるだろ、真田」
「グフッ」
「副部長、葬式には出ますから、成仏して下さい」
「い、いつの間に、柳君…」
「ふー、これで柳生に殺されんですむ…」

そんな二組の屍の踏み越え、柳が乾に結果を述べる。
だが、天然気質がどうやら存在する乾には、事の重大さが伝わってはないらしく、手にあるチョコが本命チョコだという自覚はないようだった。
そして、乾の言葉に飛び掛る手塚と真田。
手塚は不二の開眼つき呪いによって倒れ、真田は柳の刀と幸村に鎖ごと引っ張られてしまった首によって倒れた。

「先輩、今日は危ないですから早く家に帰りましょ」
「海堂…わかったよ」
「貞治が家に戻るのは賛成だが、不必要なものがあるな」
「んっすか…俺と先輩の邪魔するってのかよ」
「蓮二、海堂」
「どけ、貞治。一番の害虫を退治してくれるわ」
「俺にしてみれば、あんたが一番の害虫だ!!」
「止めろって、二人とも」
「まあまあ、乾先輩。迷惑な人たちは放っておいて、俺のチョコでも食って下さい」
「越前…」
「僕のもあるよ、乾」
「俺もにゃ、乾。はい、俺のお手製は美味いにゃ」
「不二・菊丸…」
「ああ、そういうことなら乾。これは、真田と柳が君にかける迷惑賃も一緒だが、食べてくれないか?」
「僕も、乾君の柳君とは違う、本当に部のために尽力するあなたの姿はとても好感が持てますので」
「幸村、柳生まで…」
「この俺の前で、俺の貞治にチョコを渡すとはいい度胸だ」
「先輩は俺のだって、何度言えばわかるんだー」
「誰か、止めてくれ」
「「「無理」」」

冷戦を繰り広げようとする柳と海堂の隙をついて、越前・不二・菊丸・幸村・柳生の5人がちゃっかりと乾にチョコを渡す。
それに気づいた柳と海堂が刀とラケットを片手に、5人に立ち向かって行く。
果てしなく混戦していくその状況に、中心になった乾は空を見上げ虚しく呟く。
それに胃を痛めて、保健室で倒れこんでいた常識人3人が突っ込んでいた。

幸せになるためには?
手段を選ばず、相手の気持ちも顧みず、突き進むのが我が道。
果てしなく迷惑な座右の銘を掲げた者たちが、最高の手段として駆けつけるバレンタイン。
気づけばそこは、血のバレンタインと化していた。

『幸せになるためには?』
「誰もいない、一人になれる場所にいることかもしれない…」

そう思わずにいられない、乾貞治の長いバレンタインの一日はこうして幕を下ろした。

Fin