生まれた病院も一緒で、誕生日の一日違い。
幼馴染の彼は自分にとっては双子のような存在だった。
「双子みたいだよね」
「そうだな」
「親が違うのにね」
「他人だからな」
「誕生日も一日違うのにね」
「一日違う双子もいるぞ」
家も近所で、両親共働きの乾は大抵が柳の家で過ごしていた。
服も柳の母の趣味なのか、大抵お揃いで、何処へ行くのも二人一緒。
誕生日も一日違いだからと、一緒に祝われて、そこらの兄弟なんかよりもずっと仲良く、双子のように育てられてきていた。
「一日違っても双子なの?」
「例えば、3日の11:59に生まれた後に、4日の12:05に弟が生まれたら一日違いの双子だろ」
「本当だ、じゃあ、俺らもそういうのかな?」
「そうかもしれないな」
「きっと、そうだよ。じゃなきゃ、こんなに蓮二のことわからないよ」
「そうだな。俺も貞治のことなら、何でもわかる」
きっと誰よりもお互いのことがわかっていた。
何も言わなくても、相手が何を考えているかなんて、単純だったはずだった。
当たり前のように一緒に育って、一緒に過ごしてきたから。
そしてまた、一つ年を重ねる。
「貞治…」
「うわー、蓮二。きちゃだめー」
「どうしたんだ」
「ダメだってば、俺の部屋には蓮二は入室禁止」
「…何を買ってもらった」
「パソコン」
「お前の両親は甘すぎる。小学生の子供に専用のパソコンなど買い与えてどうする」
「…自分が機械音痴だからって…」
「何か言ったか?」
「にゃにもいっひぇにゃい」
「第一、俺のは機械音痴ではなく、そんな機械にばかり頼る生活などよりも、古きものを大切にしているだけだ」
「…電子機器触るたびに、煙ふかしてるくせに」
「貞治、口は災いの元って諺知っているか?」
「しっひぇる…やから…」
6月3日
乾の誕生日、柳が乾の家に乾を迎えに来ると、自分の部屋のドアの前で乾が仁王立ちをしている。
乾の言葉から、何か新しい電子製品が入ったことに気付いた柳が、それを尋ねる。
柳は半端でなく電子製品と相性が悪く、何かしら使おうとしては煙を出してしまっている。
それを知っている乾は、新しく買ってもらったパソコンを使う前におしゃかにしてしまうものかと、自分の部屋の前で自分をバリケードにしていた。
「ともかく、今日は連には俺の部屋に入っちゃダメ」
「わかった。どうせ、今日も俺の家で祝うんだから、いいだろ」
「二日間連続でパーティーって何か嬉しいよね」
「わかったから、早く用意してこい」
「うん。すぐに終わるから、蓮二はリビングのソファにでも座って待ってて」
「手伝ってやるが?」
「だから、蓮二は部屋に入っちゃダメだってば」
絶対に入ってきたらダメだからね。
ついてきたそうな柳に何度も言い聞かせて、乾が部屋に入っていく。
きっちりと乾に部屋に入れないように鍵を閉められた柳は、仕方なさそうにリビングのほうで待つことにした。
「蓮二、お待たせ」
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
しばらくして、お泊りセットをいれた鞄を持って出てくる乾。
その乾の手を握って、二人は乾の家を後にし、柳の家に向かった。
「貞治、プレゼントだけどな」
「いつものでいいよ」
「出来たら他の…」
「今日から明日までは俺がお兄ちゃんだからね、蓮二」
「わかっている」
柳の家で、柳の家族に祝われてパーティーをしてもらう。
それもひと段落つくと、その日は乾は柳の部屋に泊まるのがいつものことで、今回も例に漏れずに柳の部屋に居座っていた。
そして、二人になって柳に祝いの言葉を貰って、嬉しそうに乾が一つ上になったことを自慢する。
それに苦い顔をして答える柳。
いつもどちらかといえば柳のほうがお兄ちゃん役をしているせいか、実際に一つ上になると乾が途端にお兄ちゃんっぽいことをしたくなるらしい。
柳からしてみれば、自分のが一日遅く生まれただけで、乾のことを弟のように見ている節があるので、お兄ちゃんのように振舞われるのはあまり好きではないのだ。
けど、今日は乾の誕生日。
結局、乾に弱い柳は、乾のしたいようにさせてやることになっている。
「ねぇ、蓮二お風呂入ろ」
「入りたいなら、入ってくればいい」
「一緒に入ろうよ」
「嫌だ」
「何で、いつもは一緒に入ってるじゃない」
「お前、俺の髪の毛洗うつもりだろう」
「うん、それにね体も洗ってあげるよ。俺、お兄ちゃんだもん」
「だから、嫌だ。お兄ちゃんなら、お風呂に一人で入れるだろ」
「むー」
何かお兄ちゃんらしいことを考えた乾が、柳の腕を引っ張ってお風呂に行こうと誘ってくる。
が、乾の魂胆が丸分かりな柳は断固としてそれを拒否する。
「いっつもは蓮二だって、俺にするくせに」
「俺はいいんだ」
「何でだよ、俺だってしてもいいじゃんか」
「何故、俺が貞治にそんなことをさせなきゃならないんだ。貞治は何もしなくても、俺がしてやるから」
「俺だって、蓮二に何かしたい」
「ダメだ、俺は貞治の手を煩わせるようなことはしたくない」
「俺がしたいっていってるのに?」
「う…」
「蓮二ぃ…」
「……」
お互いに引かない二人は、延々と言い争いを続ける。
押してはダメなら引いてみろって言葉があるように、中々決着のつかない言い争いは、シュンとうなだれた乾によって傾き始めた。
瞳を潤ませて、柳の顔を斜め下から見上げて、泣きそうな声を出す。
そうされると弱い柳は、拒否しきれなくなってきて、徐々に黙秘していく。
「お願い…」
「……今回だけだぞ」
「やったー」
駄目押しとばかりに小首を傾げてお願いする乾に、とうとう柳が折れる。
勝った乾は、手放しに喜んで撤回される前にと、柳を引っ張ってお風呂場にいそいで直行した。
「来年からは、ちゃんと何が欲しいのか言え。それを買ってやるから」
「別にないよ、蓮二に買えそうな値段のなんか。それより、今まで通りに一日、お兄ちゃんがいいよ」
「俺が困るから、他のにしてくれ」
「えー」
風呂上り、風呂場でずっと乾に世話を焼かれた柳は、精神的に疲れてしまい、グッタリとベッドに身を投げ出す。
逆に嬉しそうにはしゃいでいる乾。
柳は横目で、そんな乾を見て、やはり来年こそは他の誕生日プレゼントに変更させようと心に誓うのだった。
「貞治」
「何?」
「もうすぐ、日付が変わる」
「あ、本当だ」
他のにして欲しいという蓮二の希望に、貞治が抗議の声をあげる。
それをどうやって黙らそうかと画策しながら視線を彷徨わせていた柳が、時計を見て乾に声をかける。
時計の時間は11:59、後1分で明日に変わるという時間。
「貞治、誕生日おめでとう」
「有難う、蓮二」
日付が変わる前、一番最後に乾におめでとうを伝える柳は、言葉とともに乾の頬にキスをする。
「蓮二、誕生日おめでとう」
「有難う、貞治」
そして、日付が変わった瞬間、一番最初に柳におめでとうを伝えた乾も、言葉とともに柳の頬にキスをした。
「これでまた同い年だ」
「うん」
「お兄ちゃんゴッコもおしまいにして、もう寝るぞ」
「うん。蓮二、誕生日プレゼントは?」
「俺もいつも通りでいい」
貞治の世話をやかせてくれるならそれでいいさ。
二人してベッドにもぐりこみ、一緒の布団に入る。
肩を布団から出している乾に、布団をキチンとかけなおしてやって、柳も乾の隣で眠っていった。
一日違いで生まれた、血の繋がらない双子の誕生日は毎年、こうして幕を閉じていく。
「貞治、誕生日おめでとう」
「蓮二もおめでとう」
そして、年月がたち現在
その頃と全く同じとは言えないけれども、乾の家でお互いの生まれた日を久しぶりに一緒に祝う二人がいた。
|